今回は、「日本語研究史」の問題です。
まずは人の名前・著書を覚えながら、キーワードをしっかりと押さえていきましょう。
※ 「日本語教育史」の内容等、人物と紐づけて覚えておいた方が良いものも掲載しています。
問題1
日本イエズス会が1603年(慶長8年)に刊行した、ポルトガル式のローマ字で日本語の見出しをつけ、ポルトガル語で単語の説明をした辞書は何か?
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目次
日葡辞書(にっぽじしょ)
学習コラム
日葡辞書が発刊された1603年(慶長8年)は徳川家康が江戸幕府を開いた年です。
日本が鎖国に入るのは1639年(寛永16年)なので、まだ貿易が盛んだった時代ですね。
日葡辞書では、当時の標準語である京都語と九州方言の差にも注目していました。
のちに多言語でも翻訳され、スペイン語訳の「日西辞書」、フランス語訳の「日仏辞書」があります。
問題2
1577年に来日したポルトガル人のイエズス会士で、豊臣秀吉・徳川家康との外交貿易の折衝通訳を勤めてマカオ・長崎貿易における重要な役割を果たした人物は誰か?
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ロドリゲス
ロドリゲスが著したポルトガル語で書かれた日本語の文法書で、ラテン語文法に準拠しながら、当時の標準的口語を中心に文語や方言・敬語法などにも言及したものは何か?
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日本大文典(にほんだいぶんてん)
学習コラム
ロドリゲスはポルトガルのカトリック司祭で、いわゆるバテレンの1人です。
1619年の豊臣秀吉によるバテレン追放令でマカオに追放されてしまいました。
「日本大文典」では当時の標準語文法だけでなく、発音や各地の方言にまで言及しており、キリシタンの日本語研究史上の白眉とされています。
バテレン追放令の翌年(1620年)には、「日本小文典」を著しています。
これは「日本大文典」を初学者用に簡約化したものです。
問題3
字音によって字形と和訓を知る部分・和訓によって字形と字音を知る部分・字形によって音訓を知る部分の3部で構成されている、1598年に刊行されたキリシタン版の漢字辞書は何か?
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落葉集(らくようしゅう)
学習コラム
1598年(慶長3年)は、豊臣秀吉の没年です。
キリスト教の日本での布教禁止が進んでいった時代ですね。
落葉集では、いろは順に漢語を配列し、各見出し語の右左に音訓を区別して記載しています。
字音は室町時代末期の発音に基づいており、長音単音、清濁および半濁音を区別して用いています。
また、字音によって字形と和訓を知る「落葉集本編」、和訓によって字形と字音をしる「色葉字集」、自敬によって音訓を知る「小玉篇」の3部で構成されているのも特徴です。
問題4
学部で国語学を学んだのち、ドイツに留学して西欧言語学を修得、帰国後はその方法を適用して日本語の歴史的研究の端緒を開いた人物は誰か?
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上田万年(うえだ かずとし)
上田万年が説いた「日本語のハ行音はp→f→hの変遷を遂げた」とする学説を何と言うか?
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p音考
「国語とはどのようなものであるか」を説明した、上田万年の著書は何か?
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国語のため
上田万年が主事を務めた、国語に関する最初の国家的調査機関は何か?
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国語調査委員会
学習コラム
上田万年(うえだ かずとし)は、ドイツ留学時に西欧言語学を学び、ヨーロッパでの綴字法の変遷を見て「表音式の仮名遣いを用いるべきだ」という進歩的な国語政策を主張しました。
行動力もすごく、現:東京大学に「国語研究会」を創設して国語学研究の基礎を作ったり、国語調査委員会の主事を務めて標準語の制定などの「国語問題」の解決に携わったりしたことでも知られています。
国語調査委員会は、国語国字問題(漢字・仮名遣い等)の解決が設立目的でしたが、そこで行われた基礎的・学術的な研究調査は国語学の基礎を確立するのにも役立ちました。
「国語調査委員会(1902年~1913年)」と似た活動内容の「国語審議会(1934年~2001年)」がありますが、完全に別物です。
「国語審議会(1934年~2001年)」は、「常用漢字表」「ローマ字のつづり方」などの国語施策に取り組んでいました。
「国語審議会」は2001年以降は常設ではなくなり、「文化審議会国語文科会」がその役割を担っています。
「文化審議会国語文科会」という名称を覚える必要はありませんが、日本語に関する施策方針問題の出典元としてよく出てきます。
問題5
1873年(明治6年)にイギリスから来日し、帝国大学(現:東京大学)の博語学(言語学)を担当して近代国語学の樹立に貢献した人物は誰か?
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チェンバレン(チェンブレン)
学習コラム
自身では「チェンブレン」と書いていたそうなのですが、参考書などでは「チェンバレン」として出てきます。
チェンバレンは、日本語を中心に文学・歴史・神話など多方面にわたる研究を行い、多く学者を育てたことでも有名です。
帝国大学(現:東京大学)時代の教え子に、「p音考」で知られる上田万年(うえだ かずとし)・日本で最初のラジオ放送による初等英語講座を担当した岡倉由三郎(おかくら よしさぶろう)がいます。
日本についての事典(字典でないです)である「日本事物史」や、「古事記」の英訳によって日本を世界に紹介する役割をしたことでも知られています。
問題6
幕末にアメリカから来日した医師・宣教師で、医療・伝道の傍らで最初の和英辞典を完成させた人物は誰か?
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ヘボン
ヘボンが編集した日本で最初の和英辞典は何か?
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和英語林集成(わえいごりんしゅうせい)
学習コラム
ヘボン式ローマ字で有名ですね。
ヘボン式ローマ字では、「し・ち・ふ・しゃ」を「shi・chi・fu・sha」と表します。
その他のローマ字のつづり方については、以下の過去問解説で触れているので、お時間のあるときに読んでみてください。
和英語林集成は「ヘボン式ローマ字でつづられた辞書」というイメージがあるかと思いますが、「ヘボン式ローマ字」が使われるようになったのは第3版からです。
これは試験に出ません。
問題7
文部省に出仕し、日本における最初の近代国語辞書の出版に携わった文学博士は誰か?
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大槻文彦(おおつき ふみひこ)
大槻文彦が出版に携わった、日本語における最初の近代国語辞書は何か?
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言海(げんかい・ことばのうみ)
語法指南として「言海」の巻頭に載せたものを増訂して発刊された文法書は何か?
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広日本文典(こうにほんぶんてん)
学習コラム
文部省から命じられて編纂された日本辞書「言海(げんかい)」は「ことばのうみ」とも読みます。
こういうネーミングセンス、大好きです。
また、「言海」は、のちに増補・訂正されて「大言海」へと進化を遂げました。
言海から派生した「広日本文典」では、西洋文典の品詞分類の考え方・国学流の活用研究などを合わせた和洋折衷型の文法学説が示されています。
大槻文彦(おおつき ふみひこ)は前述の「国語調査委員会」にも所属しており、当時各地で使われていた言葉を調査した「口語法」「口語法別記」などに成果がまとめられています。
問題8
「陳述」という用語による文分類論を展開し、情態・程度・陳述副詞という副詞分類の基礎を作った人物は誰か?
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山田孝雄(やまだ よしお)
学習コラム
「たかお」ではなく、「よしお」です。
私は恥ずかしながら、受験時は「たかお」だと思っていました。
(ちゃんと合格しました。)
山田孝雄(やまだ よしお)は、言語学分野だけでなく「万葉集」「平家物語」「源氏物語」などの研究でも知られています。
書誌学や国文学の面での著述が多いですね。
副詞の分類は、選択肢の作りやすさから、よく出題される分野です。
以下に練習問題を掲載しているので、チャレンジしてみてください。
問題9
嘉納治五郎が創立した教育機関である「弘文学院(のちの宏文学院)」で中国人に対する日本語教育を行い、1913年には「日華学院」を創立して中国留学生教育に尽力した人物は誰か?
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松下大三郎(まつした だいざぶろう)
学習コラム
松下大三郎(まつした だいざぶろう)は、普遍的な一般理論文法学を目指し、独自の文法理論を作り上げたことで知られています。
松下文法では、「原辞」「詞」「断句」という3段階の基本的言語単位をもとにしています。
「原辞」は文の成分よりも小さな単位のものを表す概念、「詞」は文の成分またはそれが複数つながったもの、「断句」は「詞」の中で独立性と絶対性を持ったものです。
(「断句」が一般的な「文」に当たります。)
当初はこの考え方があまりにも特異なものだったので、一般に受け入れられなかったそうです。
のちには、多くの点で優れた見解を含むことが認められるようになり、口語文典の先駆者として知られるようになりました。
問題10
「文節」を基本単位として、文の構成を連文節(複数の分節が連なって、より大きなまとまりとして文節に相当する働きをするもの)で説明した人物は誰か?
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橋本進吉(はしもと しんきち)
学習コラム
現在の学校教育で使われている現代語の文法は、橋本文法を簡単にしたものです。
文節の問題は、定期試験でもよく出題されていましたね。
橋本進吉(はしもと しんきち)は初代の国語学会会長を務めたことでも知られています。
厳密な学風で、精緻な文献批判に基づく国語学を築きあげました。
文法研究以外では、国語の音韻史の研究でも功績を残しています。
上代仮名遣いを解明して上代語・上代文学の研究に恩恵を与えたほか、奈良時代・室町時代・当時の3つの音韻体系を柱にした音韻史を記述しました。
「古代国語の音韻について」などが有名です。
上代仮名遣いとは、奈良時代に「エ・キ・コ・ソ・ト・ノ・ヒ・メ・ヨ・ロ およびその濁音」を2つに書き分けた仮名遣いのことです。
「エ」はア行・ヤ行の区別、その他は母音に2種類の区別がありました。
これは「日本語研究史」ではなく「日本語史」で出てきます。
問題11
「言語は単に音と意味が結合した客観的な存在なのではなく、話し手を主体とした表現・理解過程である」と説いた国語学者は誰か?
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時枝誠記(ときえだ もとき)
ソシュールの「言語とは、音と意味の結合体である」という見方は、言語を「人間と離れて存在する『モノ』としている」と誤った言語観であるとし、言語主体(話し手)が思想を実現し、理解する過程そのものを言語として捉えるべきだと主張した時枝誠記による学説は何か?
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言語過程説
学習コラム
時枝文法では「詞」と「辞」を区別して表しました。
「詞」とは客観的な概念、「辞」とは概念課程を含まない表現です。
日本語は「詞」と「辞」が重層的に組み合わさった構造(=入子構造)であるとしています。
………難しいですよね。
もう少しかみ砕いて見ていきましょう。
これは、文法の中の「統語論(構文論)」と呼ばれる、単語が結合してできる句・節・文の構造や機能を研究する分野の内容です。
時枝誠記(ときえだ もとき)は、文の構成要素を「陳述」を含むか否かで「詞」と「辞」に分類しました。
「陳述」については学説によって定義が異なるのですが、ざっくりとした意味合いは「話し手や書き手が言葉や文に表す 断定・疑問・推量・感動・医師・命令・勧誘・呼びかけ などの態度」です。
文の素材となり「陳述」を全く含まないものが「詞」、文の素材にならず「陳述」だけを含むものが「辞」に当たります。
正確には違いますが、「命題」「モダリティ」の関係と似ているものだと捉えておけば、試験レベルでは大丈夫です。
問題12
ゲシュタルト心理学を紹介する一方で、東京アクセントを中心とする日本音声学や現代の話し言葉の文法研究に大きな功績を残した人物は誰か?
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佐久間鼎(さくま かなえ)
学習コラム
ゲシュタルトとは、心理学の用語で「全体は部分よりも大きいものであり、いかなるものであれ、全体の属性は部分の個別的な分析から導き出すことはできない」とする考え方のことです。
ゲシュタルト心理学では、心は要素の集合体ではなく、機能的構造をもった統一体として捉えています。
ちなみに、ゲシュタルト崩壊とは知覚における現象の1つで、 全体性を持ったまとまりのある構造から全体性が失われてしまい、個々の構成部分にバラバラに切り離して認識し直されてしまう現象のことを言います。
試験には出ません。
佐久間鼎(さくま かなえ)は、日本語音声学や現代の話し言葉の文法研究において多くの著書があり、「現代日本語の表現と語法」「標準日本語の発音・アクセント」などが有名です。
問題13
日本語の文法用語として主語を使わないようにする「主語廃止論」を唱えた言語学者は誰か?
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三上章(みかみ あきら)
学習コラム
三上章(みかみ あきら)と言えば、「現代語法序説」「象は鼻が長い」ですね。
どちらも、日本語教師人生の中で1度は読んでおくと良いと思います。
三上章は(みかみ あきら)は、前述の佐久間鼎(さくま かなえ)のお弟子さんです。
言語学だけに突き進む…といった生き方ではなく、「元々は哲学を志していて、そのためには数学を学ぶ必要がある…!!」と数学教師をしていた経歴もあります。
「主語廃止論」では、日本語の文法用語として「主語」を用いないようにする理由として、主語という用語は西洋語などで人称性などと紐づくものであり、日本語にはそれに当たるものがないこと、「は(主題)」「が(主格)」は働きが違うものであるため、両方を主語と呼ぶのは不都合があることが挙げられています。
この辺りの内容は、ぜひ「象は鼻が長い」で読んでみてください。
三上章(みかみ あきら)は主語に関する言及以外にも、従来の他動詞と自動詞という分類とは別に、「能動詞」と「所動詞」という分類を立てたことでも知られています。
「所動詞」は「ある」や「いる」など、受動態にすることができない動詞グループのことです。
これらの分類は、「迷惑の受け身」で必要な概念ですが、「日本語研究史」の内容としては「動詞を能動詞と所動詞に分類した」レベルで大丈夫です。
丸暗記よりも複数の問題に触れた方が知識が定着しやすくなります。
ぜひ、他の問題にもチャレンジしてみてください!