令和5年度 日本語教育能力検定試験の試験問題における
試験Ⅲ 問題2
の解説です。
お手元に、問題冊子をご用意の上でご確認ください。
前の問題はこちら
問1 五段活用(Ⅰグループ)の可能形の作り方
解説 日本語教育における動詞分類
国語教育では、動詞を活用の仕方によって
五段活用
上一段活用
下一段活用
サ行変格活用
カ行変格活用
のように分類していました。
日本語教育では、
五段活用 … Ⅰグループ
上一段活用・下一段活用 … Ⅱグループ
サ行変格活用・カ行変格活用 … Ⅲグループ
のように分類しています。
解説 語幹・活用語尾
中学・高校の国語の授業では、活用を以下のように勉強していきました。
語幹 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 仮定形 | 命令形 | |
きく (聞く) | き | か (聞かない) | き (聞きます) | く (聞く) | く (聞くとき) | け (聞けば) | け (聞け) |
語幹 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 仮定形 | 命令形 | |
はしる (走る) | はし | ら (走らない) | り (走ります) | る (走る) | る (走るとき) | れ (走れば) | れ (走れ) |
活用するときに変わっていく「か・き・く・く・け・け」「ら・り・る・る・れ・れ」の部分が活用語尾・変わらない部分が語幹です。
「聞く」「走る」は、どちらも五段活用なので、カ行・ラ行の違いはありますが、どちらも「ア段・イ段・イ段・ウ段・ウ段・エ段・エ段」で共通していますね。
国語教育では、
・ 未然形
・ 連用形
・ 終止形
・ 連体形
・ 仮定形
・ 命令形
という6つの活用形がありました。
日本語教育では、
・ 否定形(読まない)
・ 意向形(読もう)
・ テ形(読んで)
・ タ形(読んだ)
・ 辞書形(読む)
などの活用形を用いています。
日本語を話すことが目的なので、形で細かく分類するのではなく、ひとまとまりの表現として扱っているのが特徴です。
活用形の捉え方が国語教育・日本語教育で異なるように、語幹と活用語尾の捉え方も国語教育・日本語教育で異なります。
活用するときに変わっていく部分が「活用語尾」・変わらない部分が「語幹」でしたね。
聞かない(kikanai)
聞こう(kikou)
上が否定形・下が意向形です。
活用が変わっても変化していない部分は「kik」ですね。
また、活用して形が変わっているのは「anai」「ou」の部分です。
このことから、語幹が「kik」・活用語尾が「anai」「ou」であることがわかります。
他のⅠグループ動詞も見てみると…
読まない(yomanai)
書かない(kakanai)
聞かない(kikanai)
話さない(hanasanai)
否定形にするときは、共通して「語幹+anai」であることがわかります。
国語教育の場合は、「この動詞の活用語尾は●行なのか?」を判別する必要がありました。
日本語教育の場合は、「語幹に●●●をつければ▲▲▲形になる」とすることができます。
日本語教育の方が学習者の負担を減らせていますね。
その答えになる理由
五段活用(Ⅰグループ)の動詞の可能形を見てみると…
読む(yomu) → 読める(yomeru)
書く(kaku) → 書ける(kakeru)
聞く(kiku) → 聞ける(kikeru)
話す(hanasu) → 話せる(hanaseru)
のように、活用語尾の「u」を「eru」に変えて作っていることがわかりますね。
3が正解です。
問2 可能形の形態や使い方
その答えになる理由
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
格助詞の用法に自信がない方は、こちらを参考にしながら読み進めていってください。
出題される文法の中で、
— むきえび|日本語教育ナビ運営 (@E6b4eQSNWEXYZXB) June 16, 2023
1番重要なものは…
間違いなく「格」です。
単独での出題が多いだけでなく、
・文型
・ヴォイス
など、「格」がわからないと本質的な解き方ができない分野も多いからです。
まずは、「●格」ごとの【用法】を整理することから始めていきましょう。#日本語教育能力検定試験
「目的語」とは、動詞が表す動作の対象を表す名詞のことです。
対象の用法がある格助詞(●格)は、「が・を・に」の3つでしたね。
今回は、その中の「が・を」を聞かれています。
Aさんは中国語が話せる。
Aさんは中国語を話せる。
「話せる」の対象である「中国語」には、ガ格・ヲ格のどちらも用いることができますね。
1は間違いです。
Aさんは何事もなく日本で働けている。
可能形+テイル形にすることができていますね。
2は間違いです。
主体の用法がある格助詞(●格)は、「が・に・で・から」の4つでしたね。
可能形に限らず、ヲ格では主体を表すことはできません。
3は間違いです。
○ この壁は、重機を使えば壊せる。
「壊す」のような意志動詞だと可能形にすることができますが、
× この壁は、重機で粉々になれる。
「なる」のような無意志動詞だと可能形にできないですね。
可能形を作ることができるのは意志的行為を表す動詞だけなので、4が正解です。
問3 能力可能と状況可能の形態的な区別
解説 能力可能
足の速い彼なら、助けを呼べるはずだ。
解説 状況可能
見張りがいない今なら、助けを呼べるはずだ。
その答えになる理由
まずは、各選択の「能力可能」「状況可能」が合っているかを見ていきましょう。
「空港に行ける」のは、動作主体がもつ能力によるものではありません。
この内容は、「状況可能」の例文です。
「中に入れる」のは、動作主体外の条件によるものですね。
この内容は、「状況可能」の例文です。
「能力可能」の例文が「状況可能」の例文になっているので、1は間違いです。
「ギターが弾ける」のは、動作主体のもつ能力によるものですね。
この内容は、「能力可能」の例文です。
「飲める」のは、動作主体外の条件によるものですね。
この内容は、「状況可能」の例文です。
正しい組み合わせなので、2は間違いではありません。
「分からない」のは、動作主体のもつ能力によるものですね。
この内容は、「能力可能」の例文です。
「開けられない」のは、動作主体外の条件によるものですね。
この内容は、「状況可能」の例文です。
正しい組み合わせなので、3は間違いではありません。
「登れない」のは、動作主体のもつ能力によるものですね。
この内容は、「能力可能」の例文です。
「弾けない」のは、動作主体のもつ能力によるものですね。
この内容は、「能力可能」の例文です。
「状況可能」の例文が「能力可能」の例文になっているので、4は間違いです。
この時点で、2と3が残りました。
今回は「能力可能と状況可能との形態的な区別がないことを学習者に示すのに最も適当な例文の組み合わせ」を聞かれています。
「形態的な区別がない」なので、能力可能の例文と状況可能の例文で形が同じになる組み合わせを見てみると…
2 弾けます(hikemasu)・飲めます(nomemasu)
3 分かりません(wakarimasen)・開けられません(akeraremasen)
となり、2は「語幹+emasu」で共通していますが、3は語幹についているものが違いますね。
2は能力可能・状況可能で形態的な区別がありませんが、3は能力可能・状況可能での形態的な区別があります。
2が正解です。
問4 自動詞文が可能の意味合いを持つ場合
その答えになる理由
選択肢になっているのは、
1 降る
2 開く
3 落ちる
4 直る
で全て自動詞ですね。
正解は1なのですが、答えに至るプロセスが大事な問題です。
雑に考えるのであれば、問2から「可能形を作ることができるのは意志的行為を表す動詞」だけなので、動作主体がいない「降る」は可能の意味を含まない!
だから、自動詞文が可能の意味合いを持つ場合の例として不適当だ!
とすることもできるのですが、日本語教育能力検定試験は大問内の前の問題を正解できないと次も正解できない形式ではないので、これは問題作成側が想定している解き方ではありません。
ちなみに…
自動詞ときたら他動詞だよね!
1 降る(他動詞のペアなし)
2 開く(他動詞のペアは「開ける」)
3 落ちる(他動詞のペアは「落とす」)
4 直る(他動詞のペアは「直す」)
となり、「降る」だけは「降らせる」のように使役形にしないと他動詞にできない!
2 ○ ドアを開けられる
3 ○ ハンカチを落とせる
4 ○ 間違いを直せる
のように他動詞であれば可能形にできるので、「降る」が仲間外れだ!
というのも、今回の問題の根拠にはなりません。
「自動詞文が可能の意味を持つ場合」なので、他動詞文で考えている時点で前提が違います。
2 開く-開ける
3 落ちる-落とす
4 直る-直す
などは、自動詞・他動詞の分類だとペアにできるだけで、そもそも別物だからです。
今回の問題は、あくまで元の例文の自動詞をベースに考える必要があります。
可能形とは、「●●という行為が能力的・状況的に可能であること」を表す表現です。
1 「降る」という行為が能力的・状況的に可能ではない
2 「開く」という行為が能力的・状況的に可能ではない
3 「落ちる」という行為が能力的・状況的に可能ではない
4 「直る」という行為が能力的・状況的に可能ではない
のように並べてみると、1の「降る」だけ違和感がありませんか?
北海道はよく雪が降る。
沖縄県はあまり雪が降らない。
というのは各地域の状況を述べているだけで、可能・不可能について言及しているわけではありません。
他の選択肢を見てみると
蓋が固くないので簡単に開く。
蓋が固いので簡単には開かない。
少しの汚れは簡単に落ちる。
ひどい汚れは簡単には落ちない。
軽い故障はすぐに直る。
複雑な呼称はすぐには直らない。
のように能力的・状況的に可能・不可能であることがわかりますね。
「降らない」だけ可能・不可能について言及しているわけではないので、自動詞文が可能の意味合いを持つ場合の例として不適当だと言えます。
1が正解です。
問5 可能の意味を含む隣接表現
その答えになる理由
「隣接表現」とは、示す内容が近しくなる表現のことです。
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
「~がたい」で例文を作ってみると…
Aさんは無表情で近寄りがたい。
私の対人能力が足りないから近寄れない…ではなく、Aさんの雰囲気という状況によるものですね。
この場合の可能・不可能は、「状況可能」に分類されます。
また、
× 暖冬で桜が咲きがたい。
のように、無意志動詞について「できる・できない」を表すことはできません。
前半・後半ともに×なので、1は間違いです。
「~得ない」で例文を作ってみると…
自身で研究した体でサイト内容のコピペをSNSに展開する人のことは、理解し得ない。
のように、起こる可能性がないことを表すことができます。
また、
ましてや、それを有料で販売するなんてあり得ない。
のように、無意志動詞に付けることもできます。
前半・後半ともに○なので、2が正解です。
「~かねる」で例文を作ってみると…
受験生に薄めた情報を展開する行為は、理解しかねる。
心情的に「できる・できない」を表していて、許可が得られるかは関係ないですね。
また、心情が絡む表現なので、つくことができるのは意志動詞のみです。
前半が×・後半が○なので、3は間違いです。
「~にくい」で例文を作ってみると…
初学者・独学者相手であればコピペでもバレないだろうという考え自体が理解しにくい。
のように、するのが困難であることを表していることがわかります。
また、
虚飾に満ちた人は、信頼できる相手になりにくい。
のように、無意志動詞につけることもできます。
前半が○・後半が×なので、4は間違いです。