令和5年度 日本語教育能力検定試験の試験問題における
試験Ⅲ 問題14
の解説です。
お手元に、問題冊子をご用意の上でご確認ください。
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問1 性差別的な日本語の例
その答えになる理由
これまでも性差による表現は出題されたことはありますが、性差別まで踏み込んだのは初めてですね。
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
元々、女性の看護師を「看護婦」・男性の看護師を「看護士」と呼んでいました。
差別ではなく、男女の区別です。
2002年の法改正により、現在は男女の区別なく「看護師」に統一されています。
「看護婦」ならまだしも、「看護師」が性差別的とは言えないですね。
1は間違いです。
元々、保育現場で働く女性を「保母」・保育現場で働く男性を「保父」と読んでいました。
資格が生まれた1948年時点では女性限定の仕事だったので「保母」のみでしたが、1977年に男性が保育者になることが法的に認められたことで「保父」という名称が生まれ、1999年の法改正により、現在は男女の区別なく「保育士」に統一されています。
経緯から性差別的な要素がなかったとは言い切れませんが、男性が女性に依存しているから「保母」と呼ばれていたわけではないですね。
2は間違いです。
最近では、男優・女優→俳優に表現を変えることが増えてきましたね。
「俳優」の歴史は古く、平安時代の「色葉字類抄」には既に登場しています。
明治時代に入るくらいまでは役者になるのは男性のみなので、「俳優」=男性の役者だったそうです。
女性の役者が登場したことで「女優」という表現が生まれ、当時は男性の役者のことを表すことが多かった「俳優」と区別されるようになりました。
男優・女優の表現は、actor・actressへの対応なので、さらに後のことです。
今では、男女の区別なく役者を表現する語として「俳優」が使われています。
「女優」が女性が男性よりも優れていることを示唆しているわけではないですね。
3は間違いです。
配偶者をどう呼ぶかは、よく論争を巻き起こしていますね。
「主人」は、
- 一家の主
- 自分が仕えている人
という意味があるので、主・従属という印象を与えやすいです。
「旦那」も、同理由から避ける人が増えてきていますね。
妻のことを「主人」と呼ぶことはないので、女性が男性に従属していることを示唆している表現だと言えます。
4が正解です。
問2 ポリティカル・コレクトネスに基づいて言い換えた日本語の例
解説 ポリティカル・コレクトネス
日本でも、「看護師」「保育士」のように男女の区別による違いをなくしたり、肌色→うすだいだい・ペールオレンジのように人種差別を想起するものを変更したりしていますね。
その答えになる理由
「肌色」を「うすだいだい」と言い換えるのは、「肌の色と言えばこれ!」のような人種差別を想起するのを避けるためですね。
ポリティカル・コレクトネスの例なので、1が正解です。
「概要にある顧客内での情報格差についてなんだけど、もう少し議論を重ねないと同意できないかなぁ」
↓
「サマリーにあるクライアント内でのデジタル・ディバイドについてなんだけど、もう少しディスカッションを重ねないとアグリーできないかなぁ」
これは、最近のビジネス用語にありがちなカタカナ語を多用しているだけですね。
ポリティカル・コレクトネスの例ではないので、2は間違いです。
「老朽化」は、主に建物に対して使う表現です。
使用範囲が限定されるほか、「古くなり状態が悪くなっている」というネガティブな印象を与える表現だと言えます。
最近では、使い始めてから時間が経ったことを「経年化」・ものすごく時間がたったことを「高経年化」・時間が経って状態が悪くなったことを「経年劣化」として、時間が経ったことと状態が悪くなったことを区別して表現しますね。
ネガティブな印象を避けているだけなので、ポリティカル・コレクトネスの例ではありません。
3は間違いです。
利己的→合理的
マイペース→自然体
優柔不断→慎重
のように短所を長所に言い換えるのは、就職活動でよく見られる内容ですね。
差別的な内容が含まれないように配慮しているわけでないので、ポリティカル・コレクトネスの例ではありません。
4は間違いです。
問3 特定のジェンダーをイメージさせる表現
その答えになる理由
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
貴様の本気は、その程度か?
のように、尊大な印象なだけで、特定のジェンダーをイメージさせるものではないですね。
1は間違いです。
うるさい!
/urusai/
うるせえ!
/urusee/
のように、乱暴な印象なだけで、特定のジェンダーをイメージするものではないですね。
2は間違いです。
早く行けよ!
ように、乱暴な印象なだけで、特定のジェンダーをイメージするものではないですね。
男性的か女性的かと言われたら男性的でしょうか…?
3が正解です。
景色がきれいね。
のように、男性よりも女性をイメージさせますね。
4は間違いです。
問4 特定の人物像をイメージさせる人称詞や文末表現
解説 役割語
「わし」
「~じゃ」
であれば老人を想起する…などが例として挙げられます。
その答えになる理由
「書生」の言葉でイメージしやすいのは、夏目漱石の作品ですね。
「君・僕・~たまえ」などが該当します。
「~ますの」「~だわ」はお嬢様を表す役割語なので、1は間違いです。
2は何も問題ありません。
これが正解です。
「執事」からイメージできるのは、白髪で背筋がピシッとした老紳士ですね。
なぜか、どの作品でもセバスチャンと呼ばれるやつです。
「わし」「~じゃ」は世俗的なおじいちゃんを表す役割語なので、3は間違いです。
「宮中の女房」が用いる言葉は、「お~」「~もじ」のような女房詞ですね。
「あちき」「ありんす」は遊女を表す役割語なので、4は間違いです。
試験には絶対に出ないのですが、執事に関してはこの本が面白いです。
ぜひ、読んでみてください。
問5 教師と学習者のコミュニケーション
解説 IRE/IRF型
- 教師の発話によって会話がスタート(Initiation)
- 学習者がそれに返答(Response)
- 教師が学習者の答えに対して、評価(Evaluation)・フィードバック(Feedback)すること
その答えになる理由
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
長男が小学校・次男が保育園に通っているのですが、どちらも先生からの呼び方は「●●さん」です。
外見上の性別だけでなく、ジェンダーに配慮していることがわかりますね。
1が正解です。
ここでの「教師と学習者の関係性に関する伝統的な価値観」とは、教師が教え・生徒が学ぶという関係でしょうか…?
最近に限ったことではないですが、グループ学習・協同学習のほか、学習者同士で指摘し合うピア・ラーニングを取り入れることも増えてきましたね。
伝統的な価値観を超えたのが学習者中心の授業形態なので、2は間違いです。
IRE/IRF型の発話連鎖は、必ず教師から始まります。
発言の機会は平等ではなく、力関係も対等ではありません。
3は間違いです。
学習者から同意を求められたときに教師が「うーん…」と否定的な反応をすることに、ジェンダー的な要素はありません。
「男性学習者→女性学習者」「女性教師→男性教師」に例が変わっても、内容には影響しないですね。
4は間違いです。