令和5年度 日本語教育能力検定試験の試験問題における
試験Ⅰ 問題10
の解説です。
お手元に、問題冊子をご用意の上でご確認ください。
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問1 誤用
解説 言語間の誤り(interlingual error)
解説 言語内の誤り(intralingual error)
過剰一般化(過剰般化)
第二言語の規則を過剰に適用して生じる誤り
簡略化
言語規則を単純化させることにより生じる誤り
などが該当します。
解説 エラー
言い間違いなどの言語運用の誤用である「ミステイク」とは違い、間違って覚えているため、修正されないとそのまま定着してしまうことがあります。
解説 ミステイク
言語能力不足が原因となって起こる「エラー」とは違い、すぐに訂正できます。
その答えになる理由
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
「言語間の誤り」とは、第一言語(母語)と第二言語との差異から生じる誤用のことです。
母語の影響を受けたものであり、無関係ではないですね。
誤用の種類と記述が一致していないので、1は間違いです。
「言語内の誤り」とは、第一言語との違いからではなく、第二言語の学習の不完全さから生じる誤用のことです。
第二言語を学ぶ過程で、習得が不十分であることから生じるものですね。
誤用の種類と記述が一致しているので、2が正解です。
「エラー」とは、母語の干渉や言語能力不足が原因となって起こる誤用のことです。
成人母語話者にも見られるもので、原因の1つが言語知識不足だと言われています。
誤用の種類と記述が一致していないので、3は間違いです。
「ミステイク」とは、ついつい間違えてしまったというタイプの誤用のことです。
学習者の構築した規則が間違っていたことによる誤用は、「エラー」ですね。
誤用の種類と記述が一致していないので、4は間違いです。
問2 誤用分析
その答えになる理由
誤用分析・研究の基本的な考え方として…
第二言語習得研究では、外国語を学習する過程で誤りが現れるのは当然であり、その言語を習得するための1つのステップであると考えられています。
(↑のことを誤用とは捉えずに「中間言語」と呼んでいます。)
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
1は何も問題ありません。
これが正解です。
誤用分析・研究では、外国語を学習する中で「誤用が出てくるのは当然」という考え方をしています。
「誤用を産出させないように」ではないので、2は間違いです。
「一度きりの言い間違い」は、エラーですね。
ついつい間違えただけのものは言語的な背景が何もないので、誤用分析・研究の対象にはなりません。
3は間違いです。
誤用分析・研究の対象は、学習者が言い間違えたもの・書き間違えたものです。
意図的に使用を避けた形式は誤用として産出されないので、誤用分析・研究の対象にはなりません。
4は間違いです。
問3 グローバルエラー
解説 グローバルエラー
解説 ローカルエラー
その答えになる理由
意図した内容が伝わらないレベルの誤りなら「グローバルエラー」・間違いはあるもの意図した内容が伝わるレベルの誤りなら「ローカルエラー」です。
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
1は、「忘れました」とすべきところが「忘れます」になっていますね。
意図した内容は伝わるので、「ローカルエラー」です。
2は、「前で」とすべきところが「前に」になっていますね。
意図した内容は伝わるので、「ローカルエラー」です。
3は、「母が私に」とすべきところを「母に私が」にしてしまったのか、「あげました」とすべきところを「くれました」にしてしまったのかわからないですね。
意図した内容が伝わらないので、「グローバルエラー」です。
4は、「見て」とすべきところが「見って」になっていますね。
意図した内容は伝わるので、「ローカルエラー」です。
3が正解です。
問4 習得順序・発達順序
解説 習得順序
英語の学習であれば、現在形を学んだあとに過去形を…という順序を指しています。
解説 発達順序
英語の学習であれば、過去形の基本的な形を学んだあとに否定文と疑問文を…という順序を指しています。
その答えになる理由
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
「一つの文法項目が習得される際に」は、習得順序ではなく発達順序の説明ですね。
1は間違いです。
2は何も問題ありません。
これが正解です。
「学習者の使用の傾向」「誤用の消滅」は、複数の文法項目を習得する過程で見られるものですね。
発達順序ではなく習得順序の内容になっているので、3は間違いです。
言語研究全般に言えることなのですが、個々の学習者の使用例・誤用例を収集した上で、共通する傾向が理論化されていきます。
発達順序は「日本語が母語の学習者が英語の■■を学ぶときは、●●→▲▲の順に習得していく」であって、「Aさんはこの順序・Bさんはこの順序…」というものではありません。
4は間違いです。
問5 第二言語習得に与える母語の影響
解説 転移(言語転移)
学習言語の習得にプラスに働く場合を「正の転移」、マイナスに働く場合を「負の転移」と言います。母語と学習言語に共通点が多い場合は「正の転移」、異なる点が多い場合は「負の転移」が出やすくなります。
その答えになる理由
選択肢を1つずつみていきましょう。
「転移」は、学習言語の習得過程において、母語の言語規則を学習言語に当てはめることによって生じます。
学習者が基本的だと感じたかは関係ないので、1は間違いです。
「転移」には、学習言語の習得にプラスに働く「正の転移」・マイナスに働く「負の転移」の2つがあります。
母語と目標言語との間に類似点がある項目は、「正の転移」が起こりやすいですね。
2は間違いです。
音声は
・ 母語には [●] があるが、学習言語にはない
・ 母語には有気音/無気音の区別があるが、学習言語にはない
・ 母語と学習言語ではアクセントの種類が違う
語彙は
・ 母語と学習言語で同じ漢字だが意味が違うものがある
・ 母語の語彙を直訳しても、学習言語では指すものが違う
のように、音声と語彙は転移が起こりやすいのがわかります。
文法(文法形態素)は、音声・語彙と比べて転移が起こりにくいのですが、それは母語の言語規則を当てはめるのが、音声・言語よりも難しいからですね。
3が正解です。
「転移」は、音声・語彙・文法に限ったものではなく、どのように会話を進めていくかでも生じます。
欧米系の学習者が日本語を学んでいる場合だと、作文やスピーチの展開が結論ファーストになる傾向が見られますね。
4は間違いです。