令和5年度 日本語教育能力検定試験の試験問題における
試験Ⅲ 問題5
の解説です。
お手元に、問題冊子をご用意の上でご確認ください。
前の問題はこちら
問1 語彙の授業で新出語を導入する際の留意点
その答えになる理由
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
文字の情報や教師の読み上げた音声だけでなく、絵や写真があった方が具体的なイメージがしやすくなりますね。
1は、語彙の授業で新出語を導入する際の留意点として不適当です。
例えば、「思う」を導入する際に
- 意味
- 活用
だけでなく
- 「考える」との違い
- 人称の制限
まで一気に踏み込むと、学習者は混乱してしまいます。
上級レベルであればまだしも、初級後半レベルではその語に関わる全ての知識を同時に教えることは避けた方が良いですね。
2は、語彙の授業で新出語を導入する際の留意点として適当です。
最終的に教師から意味を明示的に伝えることは必要ですが、導入段階では学習者に意味を推測させることも有効です。
語彙に限らず、「どのようなことを指すのか…?」と疑問から入ると深い理解につながりやすいですね。
3は、語彙の授業で新出語を導入する際の留意点として不適当です。
訳語やジェスチャーでは用語そのもの・意味しか伝えることができませんが、例文では具体的にどのように使うのかを示すことができます。
語彙の授業では最終的に例文にたどり着きますし、導入で例文を使ってはいけないということはありません。
4は、語彙の授業で新出語を導入する際の留意点として不適当です。
2が正解です。
問2 語彙マップ
解説 語彙マップ
語彙知識を可視化したり、学習者が既に持っている背景知識・概念を利用して学習言語の語彙を学ぶことができます。
国際交流基金のHPに例が載っているので、参考にしてみてください。
その答えになる理由
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
語彙マップを作る過程で出てくる語彙は
- 学習者が覚えている語
- 学習者が持っている背景知識から想定できる語
です。
母語で既に獲得している背景知識や概念をフル活用しているので、1は不適当な内容です。
語彙マップは「季節」「日本のアニメ」のようにテーマごとに作成します。
「●●の意味は…」という機械的な暗記ではなく、いつ習った語なのかを区別することはありません。
2は適当な内容です。
言語能力育成における「産出活動」とは、1人でより多く話す・書くなどの活動のことです。
「好きな季節」についてスピーチをする教室活動の場合、「季節」をテーマに語彙マップを作る活動をしておけば、スピーチで必要な語を確認しておくことができますね。
3は適当な内容です。
語彙マップは中心にトピックスを書いたあと、それぞれ自由に語をつなげて記載していきます。
学習者によって広げ方も出てくる語も違うので、見せ合うことで知らなかった語や忘れかけていた語に触れることができますね。
4は適当な内容です。
1が正解です。
問3 多読の活動を行う際の教師の留意点
解説 多読
- 簡単な内容の本から始める
- わからないところは、辞書を引かずに飛ばして読む
などの注意点があります。
その答えになる理由
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
多読の目的は、大量に読むことで自然と語彙や文法の知識を身につけていくことです。
大量に読むために、わからないところは辞書を引かずに飛ばして読んでいきます。
1は、多読の活動を行う際の教師の留意点として不適当です。
多読の目的は、大量に読むことで自然と語彙や文法の知識を身につけていくことです。
内容が難し過ぎたり・学習者にとって興味の薄い内容だったりすると、読み始めるハードルが上がります。
また、読み終わったときに次に読むものがないと、大量に読むことができません。
2は、多読の活動を行う際の教師の留意点として適当です。
多読の目的は、大量に読むことで自然と語彙や文法の知識を身につけていくことです。
精読ではないので、学習者が本の内容をどの程度理解したかを確かめる必要はありません。
3は、多読の活動を行う際の教師の留意点として不適当です。
多読の目的は、大量に読むことで自然と語彙や文法の知識を身につけていくことです。
内容が難し過ぎると、そもそも大量に読むことができません。
4は、多読の活動を行う際の教師の留意点として不適当です。
2が正解です。
問4 カードの表裏に単語とその対訳を書いた単語カードを使う利点
その答えになる理由
表面に「本」・裏面に「book」のように単語と対訳を書いたカードをイメージしてみてください。
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
学習者によって、自信のある語・ない語は違います。
そのため、単語カードをめくるスピードも詰まるポイントも学習者によって変わってくるはずです。
「自分のペースで進められること」が利点であり、他の学習者と同じペースにはならないですね。
1は、単語カードを使う利点として不適当です。
単語カードは、単語そのもの・意味の1対1なので、文脈と切り離されていますね。
文脈と結びつくことで長期記憶に残りやすくなり、文脈と切り離すことで長期記憶に残りにくくなります。
2は、単語カードを使う利点として不適当です。
単語カードは、習う語を網羅しなければならないわけではありません。
「よく使われる語」「動詞だけ」のようにポイントを絞って効率的な学習につなげることもできますね。
3は、単語カードを使う利点として適当です。
単語カードは、単語そのもの・意味の1対1なので、語の複数の用法や使い分けを学ぶこはできません。
「語の様々な用法への深い理解を得る活動」と「単語カードでざっくり覚える活動」は別物として捉えた方が良いですね。
4は、単語カードを使う利点として不適当です。
3が正解です。
問5 小テストの設問の意図
解説 共起
品詞の用法の名称として…というよりも、
「『●●』という語は他のどんな語と一緒に使われることが多いか」
→「『●●』は『〇〇』と共起することが多い」
として使われます。
例文を考えるときの考え方です。
その答えになる理由
風見鶏がくるくる( )。
床がぎしぎし( )。
だと、「回る」「鳴る」が入ることが想定できるのではないでしょうか?
つるつる → すべる
じろじろ → 見る
ずきずき → 痛む
ぺらぺら → 話す
のように、「●●と来たら○○」と想定できる(=一緒に使われることが多い)ことを「共起」と言います。
この小テストの設問は( )の前のオノマトペを見て、共起する動詞を入れられるかがポイントですね。
3が正解です。