日本語教員施行試験で出題された問題のうち、
公開されたサンプル問題
の解説です。
著作権の関係上、各問題の内容は記載していません。
以下のURLを参照しながら、ご確認ください。
https://www.mext.go.jp/content/20240524-mxt_nihongo02-000036014_2.pdf
基礎試験
問題1 (5)
解説 接尾辞
私たち
懐疑的
快適さ
接尾辞「化」がつくことで、ものごとがある性質・状態に変わることを表すことができます。
その答えになる理由
選択肢は、いずれも状態がある方向に変わったことを表していますが、1だけ毛色が違いますね。
2 無料だったものが有料になる
3 規制されていたものが自由になる
4 自由だったものが義務になる
のように、2~4はON・OFFのように切り替わっていますが、1は情報が中心として機能する状態に徐々に変わっていっています。
1が正解です。
問題2 (4)
その答えになる理由
P10より
中国語 | 9,940人 | 全体の20.9% |
ベトナム語 | 2,703人 | 全体の5.7% |
フィリピノ語 | 7,462人 | 全体の15.7% |
ポルトガル語 | 11,957人 | 全体の25.1% |
であり、選択肢の中では、
- ポルトガル語
- 中国語
- フィリピノ語
- ベトナム語
に多い結果となりました。
4が正解です。
問題3 (3)
「メタ認知ストラテジー」は、学習ストラテジーの下位分類の1つです。
各用語を確認しておきましょう。
解説 学習ストラテジー
大きく
- 直接ストラテジー
- 間接ストラテジー
に分けられます。
解説 直接ストラテジー
大きく
- 記憶ストラテジー
- 認知ストラテジー
- 補償ストラテジー
に分けられます。
解説 記憶ストラテジー
語呂合わせ
繰り返し音読する
などが該当します。
解説 認知ストラテジー
教科書の内容をノートに自分の言葉でまとめる
などが該当します。
解説 補償ストラテジー
解説 間接ストラテジー
大きく
- メタ認知ストラテジー
- 情意ストラテジー
- 社会的ストラテジー
に分けられます。
解説 メタ認知ストラテジー
自身の得意・不得意を把握して学習計画を立てる
などが該当します。
解説 情意ストラテジー
発表前に気持ちを落ち着かせる
などが該当します。
解説 社会的ストラテジー
母語話者の友人に質問する
図書館で勉強する
などが該当します。
その答えになる理由
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
教師などの人間社会や環境を利用するのは、間接ストラテジーにおける「社会的ストラテジー」の内容です。
1は、「メタ認知ストラテジー」の例ではありません。
テキストの文脈などから該当箇所の意味を推測するのは、直接ストラテジーにおける「補償ストラテジー」の内容です。
2は、「メタ認知ストラテジー」の例ではありません。
学習計画などにより、自分自身の学習状況について客観的に観察するのが、間接ストラテジーにおける「メタ認知ストラテジー」の内容ですね。
3が、正解です。
目的に応じて聞き方などを変えたりして認知的な理解を促進させるのは、直接ストラテジーにおける「認知ストラテジー」の内容です。
4は、「メタ認知ストラテジー」の例ではありません。
問題3 (9)
解説 コミュニケーション・ストラテジー
解説 コード・スイッチング
今回は「言語を切り替える」として取り扱われていますが、「言語変種を切り替える」として登場することもあります。
海外で、普段は英語・日本人のコミュニティ内では日本語で話している
のように、言語そのものを切り替えている場合も、
話しかけてみたら同郷の人だったので、方言で話した
のように、言語変種を切り替えている場合も、コード・スイッチングと呼ばれます。
普通体・丁寧体を切り替えるだけの「スタイル・シフト」とは違う概念なので、注意しましょう。
「コード・スイッチング」は言語(言語変種)自体の切り替え・「スタイル・シフト」は同じ言語(言語変種)内での普通体・丁寧体を切り替えです。
その答えになる理由
選択肢を見てみると…
1だけ、コミュニケーション上の問題が起きておらず、言語(変種)の切り替えもしていないですね。
そもそも言語(変種)を切り替える必要がないため、例として適当ではありません。
問題13 問1
解説 シラバス
「シラバス」は、何を基準にどんな項目を集めたかの点において
- 構造シラバス
- 機能シラバス
- 技能シラバス(スキル・シラバス)
- 場面シラバス
- 話題シラバス(トピック・シラバス)
- 課題シラバス(タスク・シラバス)
に分類されます。
解説 構造シラバス
言語を体系的に学べる一方で、実際のコミュニケーションで使う表現がすぐに学べないというデメリットもあります。
解説 機能シラバス
実際のコミュニケーションにおける運用力が身に付く一方で、基礎的な文法や言語構造を体系的に学ぶのが難しいというデメリットもあります。
解説 技能シラバス(スキル・シラバス)
「書く」であれば、「単語の書き取り→短い文章を書く→長めの文章を書く→作文を書く」のように段階化するイメージで、副教材として他のシラバスとの併用される場合が多くあります。
解説 場面シラバス
学んだことがすぐに活かせる一方で、文法を体系的に学ぶわけではないため、最初から複雑な文構造が出てくる場合もあるというデメリットもあります。
解説 話題シラバス(トピック・シラバス)
学習者のニーズ・関心と合致していれば、学習動機が教科されて高い学習効果が期待できます。
解説 課題シラバス(タスク・シラバス)
「病院の受診」であれば、「予約の電話をする→受付で症状を話す→診察してもらう」の中でそれぞれのタスクを遂行するために必要となる表現を学ぶイメージです。
その答えになる理由
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
「読む」「書く」「話す」「聞く」の4技能それぞれの熟達を目指すシラバスは、「機能シラバス」ではなく、「技能シラバス」ですね。
1は、シラバス名と特徴の説明が一致していません。
これが正解です。
文型・文法を中心に学習項目を整理するのは、「構造シラバス」の内容です。
2は、シラバス名と特徴の説明が一致しています。
学習者の関心などから話題を中心に学習項目を整理するのは、「話題シラバス」の内容です。
3は、シラバス名と特徴の説明が一致しています。
課題を設定し、それをクリアするために必要な学習項目を整理するのは、「課題シラバス」の内容です。
4は、シラバス名と特徴の説明が一致しています。
問題13 問2
その答えになる理由
「日本語教育の参照枠」では、「全体的な尺度」、「言語活動別の熟達度」及び他の言語能力記述文の中に見られる「母語話者」という表現を修正した。言語教育観の柱として「母語話者が使用する日本語の在り方を必ずしも学ぶべき規範、最終的なゴールとはしない。」(6ページ)ということを掲げているためである。CEFR補遺版においても「母語話者」という表現は修正されており、修正後の文言についてはCEFR補遺版を参考に、「熟達した日本語話者」と言い換えた。
日本語教育の参照枠 報告 P12
文化審議会国語分科会
令和3年10月12日
3が正解です。
問題13 問3
解説 行動中心アプローチ
CEFRにおいて
- 社会的存在(social agents)
- 部分的能力(partial competences)
- 複言語主義(plurilingualism)
の3つの概念を基盤として提示されました。
「その言語を話せるようになること・書けるようになること」よりも「その言語を使って、どのような場面で・どのようなことをできるようになりたいか?」に重点が置かれています。
日本語教育関連だと、以下に記述があります。
参考はこちら
行動中心アプローチにおける言語教育の目標とは、言語の使用者及び学習者がそれぞれの社会で求められる課題を遂行できるようになることである。したがって、学習者は、文法や語彙の難易度、言語活動間のバランスにかかわらず、課題を遂行するために必要な事柄から学ぶことができる。
日本語教育の参照枠 報告 P75
文化審議会国語分科会
令和3年10月12日
その答えになる理由
「その言語を話せるようになること・書けるようになること」よりも「その言語を使って、どのような場面で・どのようなことをできるようになりたいか?」に重点が置くのが、行動中心アプローチの考え方です。
3の内容がピッタリですね。
これが正解です。
問題13 問4
解説 バックワード・デザイン(逆向き設計)
よくある「授業内容→評価の仕方→最終ゴール」という設定順とは、完全に逆の組み方をしています。
その答えになる理由
1が「バックワード・デザイン(逆向き設計)」の手順にピッタリですね。
これが正解です。
問題13 問5
解説 パフォーマンス評価
課題に対する知識や技能がどれくらい身についたかを確認するための「発表」
身についた技能を総合的に活用する力を確認するための「レポート」
などが該当します。
解説 ポートフォリオ
それらの資料を学習者自身が教師と共同で評価することを「ポートフォリオ評価」と言い、数値化が難しい学習者の活動や作品を質的に見ることで、学習意欲の向上や自律的学習につなげることができます。
その答えになる理由
選択肢を見てみると…
4だけ毛色が違いますね。
課題に対する結果を測るものではなく、過程や数値化が難しい部分を評価する「ポートフォリオ評価」の内容になっています。
これが正解です。
応用試験2
問題7 問1
解説 ロールプレイ
- 与えられた情報に限定して会話をする
- 役割だけを与えて、自由に会話させる
など、学習者のレベルに応じて様々なやり方を取ることができます。
その答えになる理由
ロールプレイは、習った文型の練習で取り入れることが多いのですが、今回は文型・表現の導入よりも先に行うタスク先行型ロールプレイが問題になっています。
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
タスク先行型ロールプレイで扱うのは、学習者にとっての未習項目です。
「どのような文型・表現か?」くらいはわかるかもしれませんが、既習項目との差が見えやすいとまでは言えないですね。
1は、間違いです。
文型・文法の導入前に行うロールプレイのため、決まった表現の使用は、強制されません。
ただし、それと文化的なルールの強制を避けられるかは、別問題です。
大学の交換留学生を対象とした日本語クラスでの同じ状況を想定したロールプレイなので、文化的なルールの強制はあると考えた方が自然ですね。
2は、間違いです。
タスク先行型ロールプレイでは、事前に言語項目を練習する必要がありません。
ただし、それが心理的な負担の軽減になるかは、学習者次第です。
「練習しなくていいんだ。ラッキー!」という学習者もいれば、「事前に練習した方が緊張しないのに…」という学習者もいますね。
3は、間違いです。
4は、何も問題ありません。
これが正解です。
問題7 問2
その答えになる理由
ロールカードを読む作業の前に行った方が良い内容を聞かれています。
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
ロールカードを読む前にモデル会話を聞いてしまうと…そこに引っ張られて、真似してしまう学習者が出てきてしまいますね。
タスク先行型にしている意味がなくなってしまうので、1は間違いです。
ロールカードを読む前に表現の仕方を伝えてしまうと…これも同じく、そこに引っ張られて、真似してしまう学習者が出てきてしまいますね。
タスク先行型にしている意味がなくなってしまうので、2は間違いです。
あえて関係のない話をするのは、学習者間の緊張を取り除くための「アイスブレイク」としては、アリです。
ただし、ウォーミングアップとしては、適切ではありません。
次の作業に繋がる形のものでなければならないので、3は間違いです。
許可を得る表現「~てもいいですか」に気づけそうな内容を話すことで、ロールカードを読んだときに、どのような言い方が適切かを具体的にイメージすることができます。
4は、ウォーミングアップとして行うのに適切な内容です。
問題7 問3
その答えになる理由
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
問2の選択肢4のように、授業を休んだ経験・その際に先生にどう話したかの経験がある学習者とない学習者では、ロールプレイの内容を身近に感じられるかに差が出てしまいます。
1は、このロールプレイの問題点の1つです。
ロールカードでは、許可することまでは記載されていますが、そのあとにどうすれば良いかまでは記載されていません。
これでは、どのような状態になれば会話が終わるかがわからないですね。
2は、このロールプレイの問題点の1つです。
ロールカードBは、本来であれば、
- ●●が理由であれば、欠席扱いにならない。
- 授業を欠席した場合には、レポートを提出する。
のような内容があった方が良いですね。
設定のままでは、ロールカードAのときは学びがあるものの、ロールカードBを担当するときは、事前に分かっている内容を聞かれるだけになってしまいます。
3は、このロールプレイの問題点の1つです。
タスク先行型のロールプレイでは、複数の表現が可能な場合、想定していた表現でないものしかロールプレイで登場しないことがありえます。
今回は、
- 休んでもいいですか?
- 休ませてもらえますか?
- 休ませていただけますか?
- 休みたいです。
- 休ませてください。
など、いくつかの表現が可能ですね。
これは、タスク先行型のロールプレイを選択した時点でわかっていることで、特にこのロールプレイの問題点であるわけではありません。
逆に、既習項目の知識を活用しながら、適切な表現を学習者自身が導き出していくのが、このロールプレイの醍醐味だと言えます。
4が正解です。
問題7 問4
その答えになる理由
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
このロールプレイの目的は、学習者自身が考え、既習項目の知識を活用しながら適切な表現を導き出すことにあります。
適切な表現を考えながらフィラーで間をつなぐのは、何も間違ってはいないのですが、不自然な量になってしまっているのであれば、直していった方が良いですね。
1は、コメントに対する教師の対応として適当です。
イントネーションが多少不自然なくらいであれば、大きな問題ではないのですが、怒っているように感じてしまうレベルであれば、直していった方が良いですね。
2は、コメントに対する教師の対応として不適当です。
2と同じく、相手に不快感を与えてしまったり、実際のコミュニケーションでも問題になるようなレベルの内容であれば、直していった方が良いですね。
3は、コメントに対する教師の対応として不適当です。
このロールプレイで大切なのは、ロールカードBの先生側ではなく、ロールカードAの学生側です。
どちらの役割もバッチリこなせるに越したことはないのですが、大学の先生らしさまで求めるかというと…そこまでは必要なさそうですね。
4は、コメントに対する教師の対応として不適当です。
問題7 問5
その答えになる理由
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
おはようございます。
来週、授業を休んでもいいですか?
だと、唐突な印象になってしまいます。
おはようございます。
今、ちょっといいですか?
来週、両親が日本に来るので…
の方が、実際のコミュニケーションでもスムーズにやり取りできそうですね。
1は、フィードバックの際に指摘した方が良い内容です。
おはようございます。
明日、両親が日本に来るので…
と一気に話してしまうのではなく、
学生「おはようございます。」
↓
先生「おはようございます。」
↓
学生「来週の授業なのですが…」
↓
先生「どうかしましたか?」
のように、文を区切ってやり取りの形にした方が、実際のコミュニケーションに近くなりますね。
2は、フィードバックの際に指摘した方が良い内容です。
3は、何も問題ありません。
これが正解です。
学生:「~休んでもいいですか?」
↓
先生:「いいですよ。誰かにノートを見せてもらってください。」
のように、「いいですよ。」のあとに何かしらの一言があった方が、実際のコミュニケーションに近くなりますね。
4は、フィードバックの際に指摘した方が良い内容です。