令和5年度 日本語教育能力検定試験の試験問題における
試験Ⅲ 問題6
の解説です。
お手元に、問題冊子をご用意の上でご確認ください。
前の問題はこちら
問1 行動中心アプローチ
解説 行動中心アプローチ
CEFRにおいて
・ 社会的存在(social agents)
・ 部分的能力(partial competences)
・ 複言語主義(plurilingualism)
の3つの概念を基盤として提示されました。
「その言語を話せるようになること・書けるようになること」よりも「その言語を使って、どのような場面で・どのようなことをできるようになりたいか?」に重点が置かれています。
日本語教育関連だと、以下に記述があります。
参考はこちら
行動中心アプローチにおける言語教育の目標とは、言語の使用者及び学習者がそれぞれの社会で求められる課題を遂行できるようになることである。したがって、学習者は、文法や語彙の難易度、言語活動間のバランスにかかわらず、課題を遂行するために必要な事柄から学ぶことができる。
日本語教育の参照枠 報告
令和3年10月12日
文化審議会国語分科会
その答えになる理由
行動中心アプローチ!
令和4年度試験で出てくるかと思っていたのですが、ようやく出題されましたね。
概要だけでなく、もっと深掘りすれば良いのに…
行動中心アプローチで重点が置かれているのは、「その言語を使って、どのような場面で・どのようなことをできるようになりたいか?」なので、3が正解です。
問2 真正性の高い教室活動
解説 真正性 オーセンティシティ
「タスク中心の教授法」等でも出てくる用語ですね。
タスク中心の教授法では、教材等が実際の社会で使われているものかどうかという表面的なものだけでなく、内容や使い方も実際の言語使用状況に合っている活動かどうかも重視されています。
その答えになる理由
「実際にその言語を使って行う活動」そのものに近くなればなるほど、真正性は高くなります。
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
メールは、通常PCやスマートフォンを使って書きますね。
実際にその言語を使って行う活動から離れているので、真正性は高くありません。
1は、真正性の高い教室活動として不適当です。
ドラマの会話を使って会話練習するのではなく、書き起こして話し言葉の表現を学ぶのですね…!!
実際にその言語を使って行う活動から離れているので、真正性は高くありません。
2は、真正性の高い教室活動として不適当です。
ロールプレイの活動自体は、実際にその言語を使って行う活動に近いですね。
1・2よりは真正性が高いのですが、元になるのがモデル会話なので、4よりも真正性が低くなります。
3は、真正性の高い教室活動として最も適当なものではありません。
映像を手掛かりに内容を理解する活動は、実際にその言語を使って行う活動に近いですね。
元になるのもテレビのニュース番組なので、3よりも真正性が高くなります。
4は、真正性の高い教室活動として最も適当です。
問3 日中同形語が原因で生じる誤りの例
解説 日中同形語
日中で漢字の構造と意味が同様である「同形同義語」・漢字の構造は同様だが意味が全く異なる「同形異義語」・漢字の構造が同様であり意味も一部が共通する「同形類義語」に分類することができます。
× 漢字細部まで全く同じ
○ 漢字の構造が同じ
なので、注意しましょう。
その答えになる理由
正解をダイレクトに選ぶためには中国語の知識が必要ですが、消去法であれば知識なしで解くことができます。
「日中同形語」が原因の誤りなので、
- 漢字の構造が日中で同じだが
- 意味が異なる
という2つの条件を満たすものが正解・それ以外が原因のものは不正解です。
「たいがく」「だいがく」の聞き取り間違いは、
[t] 無声歯茎破裂音
[d] 有声歯茎破裂音
の声帯振動の有無がわからなかったことが原因ですね。
日中同形語が原因の誤りではないので、1は間違いです。
「一人」を「ひとり」ではなく「いちにん」と読んでしまうのは、訓読みの知識がなかったことが原因ですね。
日中同形語が原因の誤りではないので、3は間違いです。
「効」を「效」と書いてしまうのは、日本語の漢字ではなく中国語の簡体字にしているだけですね。
日中同形語が原因の誤りではないので、4は間違いです。
残った2が正解です。
「質問」「质问」は、日中同形語の中でも「同形類義語」に分類されます。
日本語の「質問」は、疑問や理由を聞くこと全般を指しています。
一方、中国語の「质问」は、厳しいニュアンスを含み、相手に対して非難する・責める・詰問するときに見られる使用範囲の狭い語です。
漢字の構造は同様ですが、意味が異なることでニュアンスに違いが出てしまいますね。
問4 帰納的アプローチを用いた授業の長所
解説 帰納的アプローチ
日本語教育における「帰納的アプローチ」とは、場面や例文の提示により、学習者に意味や用法を捉えてもらう方法などが該当します。
「帰納」と対になるのは、「演繹」です。
解説 演繹的アプローチ
日本語教育における「演繹的アプローチ」とは、先に文法規則を示し、学習者に発話や例文作成を促す方法などが該当します。
その答えになる理由
ナイ形の導入であれば、
聞かない(kikanai)
話さない(hanasanai)
のが「帰納的アプローチ」で
「Ⅰグループ動詞をナイ形にするには、語幹+anaiの形にする」という規則を教師が説明し、
聞く → 聞かない(kikanai)
話す → 話さない(hanasanai)
などの練習を学習者にさせる。
のが「演繹的アプローチ」です。
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
教師が例を出し、学習者に規則を発見させるのが「帰納的アプローチ」です。
学習者自身が規則を発見するプロセスを経験するので、長期記憶に残り、定着しやすくなります。
1が正解です。
教師が例を出し、学習者に規則を発見させるのが「帰納的アプローチ」です。
学習者自身が分析的に文法を理解することができますが、それによりモチベーションが高まるかは学習者次第ですね。
プロセス重視な帰納的アプローチ派もいれば、結論重視な演繹的アプローチ派もいます。
2は間違いです。
教師が例を出し、学習者に規則を発見させるのが「帰納的アプローチ」です。
学習者が規則を発見できるようにするため、文法説明にかけるトータルの時間は「演繹的アプローチ」よりも長くなります。
3は間違いです。
教師が例を出し、学習者に規則を発見させるのが「帰納的アプローチ」です。
学習者が規則を発見できるようにするため、文法の説明方法のほかに具体例を準備しておく必要があります。
4は間違いです。
問5 社会と接点を持てるような具体的な課題を取り入れた目標設定
その答えになる理由
社会と接点があるか?というだけの問題ですね。
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
1は、国際交流団体との接点があります。
2は、新聞記事をベースにしているだけで、接点があるわけではありません。
3は、SNSでの接点があります。
4は、友人との接点があります。
2が正解です。