令和5年度 日本語教育能力検定試験の試験問題における
試験Ⅲ 問題4
の解説です。
お手元に、問題冊子をご用意の上でご確認ください。
前の問題はこちら
問1 「のだ」の接続
問4の出典元は↓の本です。
私は卒業論文の参考文献として使った本なので手元にあるのですが、もう新品はなく、中古価格が高騰しているんですね。。
「のだ」を機能面で
- ムードの「のだ」
- スコープの「の(だ)」
の2つに分けているので、1997年の野田先生の内容で間違いないはず…!!
個人的にとても好きな分野です。
なんとなく解けてしまうのが残念ですが、テーマとしては面白いですね。
その答えになる理由
「のだ」を使った述語文を作ってみましょう。
さあ、仕事を始めるのだ。
動詞文の場合、「動詞の普通形+のだ」の形です。
ここから見える景色が、1番美しいのです。
イ形容詞文の場合、「イ形容詞の普通形+のだ」の形です。
どちらから見てもきれいなんですね。
ナ形容詞文の場合、「だ」を「な」に変えて「ナ形容詞の語幹+な+のだ」の形です。
それこそが、私が言いたかったことなんです。
名詞文の場合、「だ」を「な」に変えて「名詞+な+のだ」の形です。
動詞文とイ形容詞文は「普通形」に「のだ」を接続・元の文が「だ」で終わるナ形容詞文と名詞文は「だ」を「な」に変えて「のだ」を接続します。
2が正解です。
問2 「の」の働き
その答えになる理由
「のだ」を品詞で見てみると…
「の」は、準体助詞です。
それが付いたひとかたまりに体言と同じ働きを持たせています。
「の」以外だと「から」も準体動詞です。
私が好きなのは、考えるタイプの問題です。
そこに行くの嫌だなあ。
ここからが本番だ。
大事なのは、合格してからだよね。
「だ」は、断定の助動詞です。
丁寧体だと「です」となります。
「の」が付いたひとかたまりに体言と同じ働きを持たせている=名詞化ですね。
2が正解です。
問3 「のだろう」が適切で「だろう」が不適切な場面の例
その答えになる理由
における「ムードの『のだ』」の問題です。
言語学における「ムード」とは、述語の形式により話し手の心的態度を表すもののことです。
ここで「話し手の心的態度を表す」のはモダリティではないの…?となった方は、良い感じに用語が整理できていますね。
「ムード」「モダリティ」は、どちらも話し手の心的態度を表すもので、何をベースに考えているかが違います。
「ムード」は、述語の形式をもとに話し手の心的態度を考えています。
今回の問題だと「だろう」「のだろう」で話し手の心的態度はどう違うのかを問われていますね。
「モダリティ」は、意味をもとに話し手の心的態度を考えています。
ムードは述語のみが対象ですが、モダリティは副詞・終助詞など対象が多岐に渡っていますね。
試験Ⅰ 問題3D (19)では、副詞によるモダリティが問題になっています。
先に答えを確認しておきます。
選択肢の内容を例文にしてみましょう。
(友人の性格を根拠に)
○ Aさんは海外で元気に暮らしているだろう。
○ Aさんは海外で元気に暮らしているのだろう。
「だろう」「のだろう」のどちらでもOKなので、1は例として不適当です。
(今日も暑くなると聞いて)
○ アイスクリームの販売量が伸びるだろう。
○ アイスクリームの販売量が伸びるのだろう。
「だろう」「のだろう」のどちらでもOKなので、2は例として不適切です。
(駅に入りきれないほど人がいるのを見て)
× 事故があっただろう。
○ 事故があったのだろう。
「のだろう」はOK・「だろう」はNGなので、3は例として適当です。
(新聞記事を読んで)
○ 30年後、自動運転が広く普及しているだろう。
○ 30年後、自動運転が広く普及しているのだろう。
「だろう」「のだろう」のどちらでもOKなので、4は例として不適切です。
ここからは、「だろう」「のだろう」の違いについて考えていきます。
「だろう」は、単なる推量を表します。
例文を見てみると、断定よりも可能性が低いと感じていることがわかりますね。
彼女は、日本語教育能力検定試験に合格する。
→ 100%合格できると思っている。
彼女は、日本語教育能力検定試験に合格するだろう。
→ 100%ではないが、合格できると思っている。
「のだろう」は、見聞きしたことについて原因・理由を推量するときに使います。
家に電話しても、母は出なかった。
↓
× まだ外出しているだろう。
○ まだ外出しているんだろう。
↑の文では、「だろう」が使えないですね。
単なる推量ではなく、前の文についての原因・理由を推量しているからです。
改めて選択肢を見てみると
友人は陽気な性格だから
↓
海外でも元気に暮らしていると思う
今日も暑くなると聞いたから
↓
アイスクリームの販売量が伸びると思う
新聞の記事に書いてあったから
↓
30年後、自動運転が広く普及していると思う
のように、1・2・4は【○○だから、●●と思う】という理由→推量ですが
駅に入りきれないほど人がいる
↑
事故があったのではないかと思う
のように、3は【●●だった。それは○○だからだと思う】という事実←理由の推量だということがわかります。
「のだろう」は、前述の事実・出来事に対して、話し手の考える原因・理由を述べるムードということですね。
問4 否定の焦点
その答えになる理由
における「スコープの『の(だ)』」の問題です。
まずは、「のだ」を用いない述語文を見ていきましょう。
もう勉強しない。
この問題は美しくない。
走り書きなので、ノートがきれいじゃない。
そんなの本心じゃない。
動詞文では「勉強する」・イ形容詞文では「美しい」・ナ形容詞文では「きれいだ」・名詞文では「本心だ」のように、直前の内容が否定されていますね。
これらが、各文の否定の焦点です。
私は絶対に学校に行かない。
であれば、否定の焦点は「行く」であることがわかります。
「のではない」ではどうでしょうか?
「の」は準体助詞で、それが付いたひとかたまりに体言と同じ働きをさせています。
私は【行きたくて学校に行くの】ではない。
そのため、否定されているのは【 】全体ですね。
また、【 】の中でどこに焦点が当たっているかを見ると、「行きたくて」の部分であることがわかります。
前者の文では「行く」に否定の焦点がありましたが、後者の文では「行きたくて」にありますね。
このように、「のだ」には否定の焦点を変える働きがあります。
4が正解です。
【 】のようなどこからどこまで否定の作用が及ぶかを「スコープ」・スコープの中で特にどこが否定されるかを「フォーカス」と言います。
こちらの記事で詳しく解説しているので、あわせてご確認ください。
問5 「のだ」の使い方の様々な特徴
その答えになる理由
例文で考えてみましょう。
○ その仕事、私がやりますか?
○ その仕事、私が担当ですか?
のようなYes/Noで答えられる疑問文は
○ その仕事、私がやるんですか?
○ その仕事、私が担当なんですか?
のように、「のだ」の有無に関係なく自然な文にすることができます。
(「のだ」を使った方が、より不満を表すことができます。)
一方、「どうして」「なぜ」などを使って疑問文にするときは
○ その仕事、どうして私がやりますか?
○ その仕事、なぜ私が担当ですか?
○ その仕事、どうして私がやるんですか?
○ その仕事、なぜ私が担当なんですか?
のように、「のだ」を有無に関係なく自然な文にすることができます。
ただし、「のだ」を使うことで、特に感情なくYes/Noを聞いていた内容に不満の感情がプラスされていますね。
文法的には自然ですが、意味的には元の文になかった要素を付け加えてしまう点が不自然だと言えます。
1は不適当な内容です。
① この漢字は何と読みますか?
② この漢字は何と読むんですか?
①は、教師→学習者への疑問文として自然です。
②だと、教師側も読み方を知らないようなニュアンスになってしまいますね。
答えを知っている教師が学習者に発する疑問文では、「のだ」を使わない方が自然だと言えます。
2は適当な内容です。
彼は、大学で日本語教育学を専攻し、新卒で日本語教師になり、晩年は日本語教師の育成に取り組んだ。
↓
○ 日本語教育に一筋だったのだ。
△ 日本語教育に一筋だった。
「のだ」があった方が自然な文ですが、「日本語教育一筋」という情報の伝達には支障がないですね。
3は適当な内容です。
この仕事は、Aさんが担当です。
だと事実を述べているだけですが、
この仕事は、Aさんが担当なんです。
だと「私が担当ではないので、苦情はAさんに言ってください」のようなニュアンスが伝わってきますね。
使うべきところでないところで使うと、不自然かつ無礼な印象になってしまうことがわかります。
4は適当な内容です。
1が正解です。