令和6年度 日本語教育能力検定試験の試験問題における
試験Ⅰ 問題3D
の解説です。
執筆時点では、正式解答は公表されていません。
参考の1つとして、ご確認ください。
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(16)活用による動詞グループ
その答えになる理由
各活用形を確認してみましょう。
未然形 | (立ち)入らない |
連用形 | (立ち)入ります |
終止形 | (立ち)入る |
連体形 | (立ち)入るとき |
仮定形 | (立ち)入れば |
命令形 | (立ち)入れ |
五段活用(Ⅰグループ)なので、1が正解です。
(17)連体形を用いて名詞でない語句を名詞と同じ働きで使う用法
その答えになる理由
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
「遥かなる」は、ナ形容詞「遥かだ」の連体形の古めかしい言い方です。
連体形で名詞「旅路」を修飾しているだけであり、名詞と同じ働きで用いられているわけではありません。
1は、例として不適当です。
「べき」は、イ形容詞型の活用をする助動詞「べし」の連体形です。
「まず学ぶべき」が主語の役割をしており、連体形で名詞と同じ働きをしています。
2は、例として適当です。
「驚き」は、動詞「驚く」の連用形です。
格助詞「を」の前にあり、名詞と同じ働きをしていますが、連体形ではないですね。
3は、例として不適当です。
「見送り」は、動詞「見送る」の連用形です。
格助詞「に」の前にあり、名詞と同じ働きをしていますが、連体形ではないですね。
4は、例として不適当です。
(18)「己の欲せざる所は人に施すなかれ」における「所」
その答えになる理由
「己の欲せざる所は人に施すなかれ」とは、論語の一節で、「自分が欲していないことは、人も欲していないのだから、人に対してしてはならない」という内容です。
選択肢では、1・2が
- 修飾節内の動詞の対象
3・4が
- 修飾節内の動詞の主体
となっています。
「自分がしたくないことは、他人にしてはダメだよ!」の主体は、「あなた」ですね。
「自分がしたくないこと」は、「●●してはいけない」の部分に当たるので、動詞の対象の働きをしています。
この時点で、3・4が除外され、1・2のいずれかが正解です。
1・2の例文を見てみると、同じ「を」でも助詞の種類が異なることがわかります。
1の「…ところを」の「を」は、逆接を表す接続助詞です。
「こちらから伺うべきでしたが」などに言い換えることができますね。
2の「知るところを」の「を」は、対象を表す格助詞です。
動詞「述べる」の言語活動の対象を表しています。
例文と文法的説明の両方が正しい2が正解です。
(19)「人のためではない」という解釈における「ならず」の文法的説明
その答えになる理由
「情けを人にかけておけば、巡り巡って自分に良い報いが来る」という本来の意味の場合は、「情けは人の為ではない(=自分のためだ)」という解釈ですね。
この場合の「ならず」は、「ではない」に当たるので、断定の助動詞「なり」の未然形に打ち消しの助動詞「ず」が付いたものです。
「情けをかけるのは、自立の妨げになり、その人のためにならない」という本来の意味と異なる場合は、「情けが人のためになることはない」という解釈です。
この場合の「なる」は、「信号が赤になる」と同じように、変化を表す動詞であり、「ならず」は、動詞「なる」の未然形に打ち消しの助動詞「ず」が付いたものであることがわかります。
本来は、助動詞「なり」だったのを動詞「なる」だと解釈したことから、意味の違いが出てきてしまったということですね。
「人のためではない」という本来の解釈の場合は、断定の助動詞「なり」の未然形に打ち消しの助動詞「ず」が付いたものなので、3が正解です。
(20)「現代の語感を基にすると誤った解釈になる場合」の例
その答えになる理由
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
無きにしも非ず
は、「無いわけではない」という内容ですね。
1は、現代の語感であっても、解釈を誤ることはありません。
眠れる森の美女
は、「眠っている森の美女」という内容ですね。
2は、現代の語感であっても、解釈を誤ることはありません。
住めば都
は、「住んでいるうちに居心地が良くなっていく」という内容ですね。
3は、現代の語感であっても、解釈を誤ることはありません。
著者が言わんとする意味
の「言わん」の部分は、元々は
- 意志の助動詞「む」の撥音便
であり、「言おう」という解釈ですが、
- 打ち消しの助動詞「む」の撥音便
だと捉えると、「言わない」という解釈になります。
現代の語感を基にすると誤った解釈になるので、4が正解です。