令和4年度 日本語教育能力検定試験の試験問題における
試験Ⅲ 問題2
の解説です。
お手元に、問題冊子をご用意の上でご確認ください。
前の問題はこちら
問1 「は」が付加されると義務的に消去される格助詞
その答えになる理由
各選択肢の格助詞に「は」をつけた例文を考えてみましょう。
1 から
○ ここからは遠くが見渡せません。
2 と
○ もう彼とは一緒に仕事ができません。
3 で
○ 紙では強度が足りません。
4 を
× 万年筆で手紙をは書いた。
4だけ、文が不自然ですね。
これが正解です。
格助詞は、「が・を・に・へ・と・から・より・で・まで」の9つです。
選択肢になった4つ以外だと、
× その仕事は私がはやります。
× 窓よりは見える景色がきれいだ。
○ 彼には私から伝えておきます。
○ 図書館へはバスで行くとよいですよ。
○ 9時までは私が担当します。
のように、「が」「より」も「は」を付加することができません。
格助詞については、以下の記事で詳しく解説しています。
こちらも合わせてご確認ください。
問2 「対象」として解釈できる「が」の例
解説 格助詞「が」の用法
【主体】
雨が降る。
(動きの主体)
近所に有名なケーキ屋がある。
(状態の主体)
【対象】
日本語教育能力検定試験に合格できたことが嬉しい。
(心的状態の対象)
彼は、英語が話せる。
(能力の対象)
海賊王になるという夢がある。
(所有の対象)
「主体」とは、
- 述語が表す動きを引き起こすもの
- 述語が表す状態の持ち主であるもの
「対象」とは、
- 述語が表す動きの影響を受けるもの
- 述語が表す認識が向けられるもの
のことです。
その答えになる理由
難易度が上がると、
- 主体の用法の中での細分化
- 対象の用法の中での細分化
が出題されるのですが、今回はシンプルに「主体」「対象」のどちらかです。
動詞文で出題されることが多いのですが、今回はイ形容詞文・ナ形容詞文・名詞文ですね。
- 述語が表す状態の持ち主であるもの
であれば、主体の用法
- 述語が表す認識が向けられるもの
であれば、対象の用法が該当します。
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
1の文の述語は、ナ形容詞「本場だ」です。
ガ格名詞である「ナポリ」は、「本場だ」という状態の持ち主ですね。
これは、主体の用法です。
2の文の述語は、ナ形容詞「嫌いだ」です。
ガ格名詞である「パセリ」は、「嫌いだ」という認識が向けられるものですね。
これは、対象の用法です。
3の文の述語で使われているのは、イ形容詞「細い」です。
ガ格名詞である「ウエスト」は、「細い」という状態の持ち主ですね。
これは、主体の用法です。
4の文の述語で使われているのは、名詞「名物」です。
ガ格名詞である「マグロ」は、「名物」という状態の持ち主ですね。
これは、主体の用法です。
細分化された用法で見てみると、
1 状態の主体
2 心的状態の対象
3 状態の主体
4 状態の主体
となります。
2が正解です。
格助詞「が」については、以下の記事で詳しく解説しています。
こちらも合わせてご確認ください。
問3 主体や対象以外にも付加できる「は」
その答えになる理由
Aさんがこのレポートを書いた。
- ガ格名詞である「Aさん」は、述語「書いた」の主体
- ヲ格名詞である「このレポート」は、述語「書いた」の対象
ですね。
この文は、主題が含まない無題文です。
これを「は」を使って主題がある有題文にしてみましょう。
主体である「Aさん」を主題にすると、
Aさんはこのレポートを書いた。
対象である「このレポート」を主題にすると、
このレポートはAさんが書いた。
となります。
「主体」「対象」については、定義が重要です。
「主体」とは、
- 述語が表す動きを引き起こすもの
- 述語が表す状態の持ち主であるもの
「対象」とは、
- 述語が表す動きの影響を受けるもの
- 述語が表す認識が向けられるもの
として整理しておきましょう。
選択肢の文は、すべて主題のある有題文です。
これらを無題文に変換して考えてみます。
このグラウンドがかなり広い。
ガ格名詞である「このグラウンド」は、「広い」という状態の持ち主ですね。
1の文で使われている「は」は、主体を主題化しています。
彼が2時間後に出発する。
ガ格名詞である「彼」は、述語が表す動作を引き起こすものですね。
2の文で使われている「は」は、主体を主題化しています。
昨日、図書館に行きました。
この選択肢だけ、格成分ではないですね。
「昨日」は、動詞「行く」を修飾する副詞です。
3の文で使われている「は」は、副詞を主題化しています。
犯人をもう捕まえました。
ヲ格名詞である「彼」は、述語が表す動きの影響を受けるものですね。
4の文で使われている「は」は、対象を主題化しています。
2が正解です。
問4 節の内部に主題を表す「は」が現れることが可能な従属節のタイプ
その答えになる理由
具体的に従属節のタイプが示されているので、例文で考えて「は」を入れることができるかを見ていきましょう。
○ 彼は良い人だけれど、お付き合いはできない。
○ 彼は良い人だし、お金も持っている。
「~けれど」「~し」などの等位節で、主題を表す「は」を入れた例文が成り立っていますね。
1が正解です。
× 彼は良い人だったら、お付き合いしていたのに。
○ 彼が良い人だったら、お付き合いしていたのに。
× 彼はあれば、娘の結婚相手にふさわしい。
○ 彼であれば、娘の結婚相手にふさわしい。
「~たら」「~ば」などの条件節では、主題を表す「は」を入れた例文が成り立ちません。
2は間違いです。
△ 彼は若いとき、事業を立ち上げた。
○ 彼は若いときに、事業を立ち上げた
△ 私は家を出たあと、忘れ物をしたことに気づいた。
○ 私は家を出たあとで、忘れ物をしたことに気づいた。
○ 私は家を出たあとに、忘れ物をしたことに気づいた。
「~とき」「~あと」などの時間節に主題を表す「は」を入れることはできますが、その場合「で」「に」などを入れた方が自然ですね。
3は間違いではありませんが、最も適当ではありません。
× 父はしてくれたように、家族を大切にしていきたい。
○ 父がしてくれたように、家族を大切にしていきたい。
× 心臓は止まりそうなほど、突然の出来事に驚いた。
○ 心臓が止まりそうなほど、突然の出来事に驚いた。
「~ように」「~ほど」などの様態節では、主題を表す「は」を入れた例文が成り立ちません。
4は間違いです。
問5 「は」の文法的特徴
解説 分裂文
【単文】
私は彼女を愛している。
↓
↓ 分裂文にすると…
↓
【複文】
私が愛しているのは、彼女だ。
その答えになる理由
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
私が愛しているのは、彼女だ。
この分裂文の焦点は、「彼女」ですね。
「は」で主題化されている「私が愛しているのは」の部分ではありません。
1は間違いです。
「は」は、
新生活はどう?
のように、新しい話題を設定する場合のほか
A「新しい車を買ったんだ。」
B「へえ、その車は何色なの?」
のように、先に出た話題に使うこともできますね。
2は間違いです。
この料理、見かけはいいね。
と聞くと、「味は良くなのかな…?」という感じがしますね。
これは、「は」には、とりたて助詞としての対比の用法があるからです。
「は」はとりたて助詞の代表格なので、3は間違いです。
○ 何が問題なの?
× 何は問題なの?
のように、「は」を使って疑問詞を主題にすることはできません。
4が正解です。