平成28年度 日本語教育能力検定試験の試験問題における
試験Ⅲ 問題1
の解説です。
お手元に、問題冊子をご用意の上でご確認ください。
前の問題はこちら
問1 動詞の形態が変わるのに合わせて格関係も変わる表現
「格」という用語は次の大問でも出てきますね。
「なんとなく知っている」という方が多いかと思いますので、改めて確認しておきましょう。
解説 格
「格」とは「名詞と述語の間に成り立つ意味関係」を表す文法用語です。
…なんだかイメージしづらいですよね。
例文で考えてみましょう。
雨が降る。
であれば、「降る」という【動きの主体】が「雨」であることを表しています。
私は逆上がりができる。
であれば、「できる」という【能力の対象】が「逆上がり」であることを表しています。
同じ「が」でも、意味関係が違いますね。
「雨が」は【動きの主体】、「逆上がりが」は【能力の対象】です。
これらの意味関係は、名詞につく「格助詞」によって示されます。
言い換えれば、「直前の名詞が、述語に対してどのような関係か?」を格助詞で表しています。
その答えになる理由
まずは、元の文の格を確認しておきましょう。
1 …は…に…を V
2 …には…が V
3 …が…に…を V
4 …に…が V
本文の内容通りに、各選択肢を「動詞+られる」で可能表現に変えてみます。
1 彼は背中に大きなリュックを背負える。
2 太郎は遠くの雷の音が聞こえる。
3 上司は部下に企画書を作らせられる。
4 机の上に荷物を置ける。
それぞれの格を確認してましょう。
1 …は…に…を V
2 …は…が V
3 …は…に…を V
4 …に…を V
1以外は「動詞+られる」で可能表現に変えたことで、格助詞が変わりましたね。
動詞の形態が変わるのに合わせて格形態も変わる表現の例として不適当なのは 1です。
問2 ヴォイス
せっかくなので、用語の意味も確認しておきましょう。
ヴォイスの考え方は、以下の通りです。
「動詞の形を変える」で認識していると解けない問題が出てくるので、注意してください。
解説 ヴォイス
「ヴォイス」とは、動詞の表す動きを、別の立場から表現する形式のことです。
以下が、よく出てくる例です。
使役
「学生が勉強する」
→「先生が学生に勉強させる」
受身
「AがBを蹴った」
→「BがAに蹴られた」
可能
「日本語を話す」
→「日本語を話せる」
自発
「遠くの山を見る」
→「遠くに山が見える」
その答えになる理由
選択肢に出てくるのは
・自発
・尊敬
・直接受身
の3つですね。
それぞれについて、例文で考えてみましょう。
【能動態→自発態へ】
この時期になると、(私は)猛勉強した日々を思い出す。
→ この時期になると、(私に)猛勉強した日々が思い出される。
動詞の形態が変わるのに合わせて、格関係も変わっています。
【能動態→尊敬態へ】
先生がパンを食べた。
→ 先生がパンを食べられた。
動詞の形態が変わっても、格関係は変わっていません。
【能動態→受動態へ】
Aさんが太鼓を叩いた。
→ 太鼓がAさんに叩かれた。
動詞の形態が変わるのに合わせて、格関係も変わっています。
「尊敬」を表す場合だけが、動詞の形態を変えたときに格関係が変わる表現の例外ですね。
3 が正解です。
問3 ら抜き言葉
解説 ら抜き言葉
「ら抜き言葉」とは、一段動詞・カ変動詞の可能形から「ら」が抜け落ちた表現のことです。
見る → 見られる → 見れる
食べる → 食べられる → 食べれる
来る → 来られる → 来れる
東京方言では、大正~昭和初期から例が見られます。
(↑「ら抜き言葉」だと、例が見れます ですね。)
その答えになる理由
4が「ら抜き言葉」の内容そのままですね。
これが正解です。
問4 可能表現が言語によって使える範囲が異なることに起因する誤用
その答えになる理由
ポイントは、下線部よりも前の「日本語の可能表現は動作主体による実現能力を表す場合に使える」です。
日本語の可能表現は「動作主体が頑張ればできる場合にだけ使える」が、学習者の母語によっては「動作主体の実現能力以上の場合」等でも使えることがある。
↑の例として最も適当なものを選びなさい。
というのが今回の問題の内容です。
2の「治る」だけが「動作主体の実現能力以上」ですね。
これが正解です。
問5 動作対象の声質による可能を表す
その答えになる理由
本文中における可能表現は
① 動作主体の能力による可能(問4の内容)
② 状況による可能
③ 動作対象の性質による可能
の3つが提示されています。
「動作主体」「動作対象」の捉え方だけ、注意しておいてください。
私は80kgのバーベルを上げられる。
であれば、動作主体は「私」・動作対象は「バーベル」です。
このトラックには4tまで荷物を積める。
であれば、動作主体は「トラック」・動作対象は「荷物」です。
↑のように、動作主体が「無機物」なこともありえます。
選択肢を見ていきましょう。
1は、動作主体「網棚」・動作対象「荷物」ですね。
動作主体「網棚」の能力(強度)による可能なので、①が該当します。
1は、例として不適当です。
2は、動作主体「来店者」・動作対象「タバコ」ですね。
動作主体・動作対象どちらかが原因で可能になるわけではないので、②が該当します。
2は例として不適当です。
3は、動作主体「読者」・動作対象「この本」ですね。
動作対象の性質(絵が多い)による可能なので、③が該当します。
これが正解です。
4は、動作主体「私」・動作対象「なし」ですね。
動作主体「私」の能力による可能なので、①が該当します。
4は、例として不適当です。