
日本語を基礎から学ぶ方・学び直す方向けの講座です。
「こう教えてもらっていればわかったのに…」
を実現してくことを目的としています。
本講座では、主に
・言語学全般
・日本語文法
について取り扱っていきます。
・日本語教育能力検定試験の学習のため
以外にも、
・日本語教師としてレベルアップしていきたい
・現場知識だけでなく、きちんと土台も固めておきたい
という方は、ぜひご一読ください。
こんなお悩みはありませんか?
「他動詞」「自動詞」自体はわかるが、「自他の対応」のように聞かれると悩んでしまう…
基本的なものはわかるが、例外となる語の知識は自信がない…

今回の記事では…
「自動詞」「他動詞」の問題を解くために必要な知識を一通り確認すること
を目標に解説していきます。
日本語教育能力検定試験において、「他動詞」「自動詞」はどのように出題されるか?
日本語教育能力検定試験において、「他動詞」「自動詞」は主に
試験Ⅰ 問題1
で出題されます。
以下が、出題イメージです。
【 】内に示した観点から見て、他と性質が異なるものを選びなさい。
【自他の対応】
1 消える
2 落ちる
3 倒れる
4 曲がる
5 泳ぐ
令和3年度試験 試験Ⅰ 問題1 (8)
の選択肢を変えて問題を作成しました。
「消える」は、自動詞と他動詞のどちらでしょうか?
と聞かれれば、「自動詞!」と答えることができる方が多いのではないかと思います。
この問題は、そこから一歩進んで「自動詞」「他動詞」のペアを考える必要があります。
1 「消える」は自動詞で、ペアとなる他動詞は「消す」
2 「落ちる」は自動詞で、ペアとなる他動詞は「落とす」
3 「倒れる」は自動詞で、ペアとなる他動詞は「倒す」
4 「曲がる」は自動詞で、ペアとなる他動詞は「曲げる」
5 「泳ぐ」は自動詞で、ペアとなる他動詞はない
となり、5が仲間外れです。
それでは、次の問題はどうでしょうか?
同じように、仲間外れを探してみてください。
【自他のペア】
1 壊す
2 使う
3 開ける
4 沸かす
5 重ねる
「1~5は、すべて他動詞だ!」というところまでは、大丈夫ですね。
1 「壊す」は他動詞で、ペアとなる自動詞は「壊れる」
2 「使う」は他動詞で、ペアとなる自動詞は「???」
3 「開ける」は他動詞で、ペアとなる自動詞は「開く」
4 「沸かす」は他動詞で、ペアとなる自動詞は「沸く」
5 「重ねる」は他動詞で、ペアとなる自動詞は「重なる」
と考えて、正解の2番に辿り着ける方もいるかと思います。
それでは、なぜ2番が仲間外れなのでしょうか?
「ペアとなる自動詞がないから」だと根拠不足で、正しくは
「使う」は他動詞で、ペアとなる自動詞がない。
そのため、受身形の「使われる」がペアとして使われる。
からです。
また、他動詞の中でも、次のように聞かれるとどうでしょうか?
【 】内の観点から、仲間外れを探してみましょう。
【文型】
1 壊す
2 落とす
3 かみつく
4 開ける
5 叱る
正解は3番なのですが、根拠まで説明できる方はグッと減るのではないかと思います。
(解説は、後述します。)
このように、「自動詞」「他動詞」は少し踏み込むだけで、問題の難易度を一気に上げることができる分野です。
基礎部分から解説していくので、しっかりと知識を身につけるようにしていきましょう。
「他動詞」「自動詞」の判別
× 「~を」をとる動詞が「他動詞」・とらない動詞が「自動詞」
というのは間違いです。
この覚え方だと、
開ける・壊す・叱る
などは「他動詞」だと判別できますが、
かみつく・逆らう
などが「他動詞」として判別できません。
正しくは、
○ 働きかけられる対象をとる動詞が「他動詞」・とらない動詞が「自動詞」
です。
この覚え方であれば、
他動詞には、
Aさんがドアを開ける。
Aさんがドアを壊す。
先生がAさんを叱る。
のように「が・を」文型をとるものと
犬がAさんにかみつく。
Aさんが先生に逆らった。
のように「が・に」文型をとるものがある。
のように整理することができます。
※ 「文型」については、以下の記事で解説しています。
この整理の仕方ができていれば、先ほどの例題も、根拠まで含めて解けるはずです。
【文型】
1 壊す
2 落とす
3 かみつく
4 開ける
5 叱る
それぞれの動詞がどのような文型になるかを例文で考えてみましょう。
1 Aさんがドアを壊す。
2 Aさんが本を落とす。
3 犬がAさんにかみつく。
4 Aさんがドアを開ける。
5 Aさんが犬をしかる。
すべて「他動詞」ですが、3だけ「が・に」文型で、その他は「が・を」文型ですね。
○ 働きかけられる対象をとる動詞が「他動詞」・とらない動詞が「自動詞」
ということを押さえた上で、「他動詞」「自動詞」について、もう少し詳しく見ていきましょう。
「他動詞」とは?
「他動詞」とは、働きかけられる対象をとる動詞のことです。
Aさんがこの本を書いた。
AさんがBさんにプロポーズした。
働きかけられる対象は、「ヲ格」または「ニ格」で表され、どちらをとるかは動詞によって異なります。
「ヲ格」をとる他動詞
例:開ける・直す・壊す・書く・読む
「ニ格」をとる他動詞
例:叱る・かみつく・逆らう
また、「ヲ格」「二格」の名詞を主語にすることで直接受身文にすることができます。
この本は、Aさんに書かれた。
Bさんが、Aさんにプロポーズされた。
「自動詞」とは?
「自動詞」とは、働きかけられる対象をとらない動詞のことです。
公園で遊ぶ。
Aさんが泣いている。
上の文の動詞が「自動詞」であることは、大丈夫ですね。
それでは、次の例文の動詞は、それぞれ「自動詞」「他動詞」のどちらでしょうか?
① Aさんが家を建てた。
② Aさんが家を出た。
「どちらも『ヲ格』をとっているから『他動詞』だ!」というのは、間違いです。
「他動詞」は、働きかけられる対象をとる動詞
「自動詞」は、働きかけられる対象を取らない動詞
でしたね。
① Aさんが家を建てた。
では、動詞「建てる」が働きかけている対象が「家」ですが、
② Aさんが家を出た。
では、動詞「出る」が「家」に働きかけているわけではありません。
「働きかけられている」と言われてもよくわからない…!!というときは、直接受身文に変換してみましょう。
① Aさんが家を建てた。
→ ○ 家が、Aさんに建てられた。
② Aがんが家を出た。
→ × 家が、Aさんに出られた。
①の「建てる」の文は「ヲ格」を主語にした直接受身文を作ることができますが、②の「出る」の文では作れないですね。
△ 「出る」「走る」のような移動動詞は、「ヲ格」をとるが「自動詞」
と解説している場合もあるのですが、この説明だと不十分です。
8時に家を出る。
道を渡る。
グラウンドを走る。
狭い路地を抜ける。
などが「他動詞」でないことは説明できますが、
楽しい時間を過ごす。
などは説明できないからです。
ここで注目すべきは、動詞ではなく「ヲ格」です。
「ヲ格」には、【対象】【起点】【経過域】の3つの用法があります。
【対象】静かにドアをノックした。
【起点】8時に家を出た。
【経過域】休みを家で過ごした。
「他動詞」は、働きかけられる【対象】をとる動詞
「自動詞」は、働きかけられる【対象】をとらない動詞
で、働きかけられる【対象】は「ヲ格」「ニ格」で表します。
気をつけるのは、すべての「ヲ格」が【対象】を表しているわけではないということです。
「ヲ格」をとる動詞であっても
「ヲ格」の用法が【対象】ではなく【起点】【経過域】の場合は
「他動詞」ではなく「自動詞」
であることを覚えておきましょう。
この判別には、格助詞の知識が必要です。
以下で解説しているので、不安がある方は参照してみてください。
「有対自動詞」と「有対他動詞」
開く・落ちる・壊れる
のように、形態的に対応する他動詞のペアをもつ自動詞を「有対自動詞」
開ける・落とす・壊す
のように、形態的に対応する自動詞のペアをもつ他動詞を「有対他動詞」と言います。
「自動詞」「他動詞」がペアになっており、どちらの視点から述べているかの違いだけです。
次の動詞について、それぞれ「自動詞」「他動詞」の観点からペアになるものを考えてみましょう。
自動詞 | 他動詞 |
決まる | ①( ) |
②( ) | 起こす |
通る | ③( ) |
④( ) | 重ねる |
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
正解は…
自動詞 | 他動詞 |
決まる | ①( 決める ) |
②( 起きる ) | 起こす |
通る | ③( 通す ) |
④( 重なる ) | 重ねる |
「無対自動詞」と「無対他動詞」
走る・泳ぐ・疲れる
のように、形態的に対応する他動詞のペアをもたない自動詞を「無対自動詞」
見る・読む・ほめる
のように、形態的に対応する自動詞のペアをもたない他動詞を「無対他動詞」と言います。
自他動詞
ドアが開く。
ドアを開く。
のように、自動詞と他動詞の対応をもつ動詞の中で、自他同形となるものを「自他動詞」と言います。
危険が伴う。
危険を伴う。
夢が実現する。
夢を実現する。
問題が解消する。
問題を解消する。
準備が手間取る。
準備に手間取る。
などが該当します。
注意するのは、「開く」です。
「開く」の場合は
「開く」が自動詞・「開ける」が他動詞
ですが、「開く」の場合は
自動詞・他動詞ともに「開く」
の「自他動詞」です。
ペアがないときの対応
無対自動詞の場合
走る・泳ぐ・疲れる
など、形態的に対応する他動詞のペアをもたない自動詞が「無対自動詞」です。
多くの場合、これらを他動詞のように使うときは、
Aさんがはだしで走った。
Aさんをはだしで走らせた。
のように「使役形」で代用することができます。
無対他動詞の場合
見る・読む・ほめる
など、形態的に対応する自動詞のペアをもたない他動詞が「無対他動詞」です。
多くの場合、これらを自動詞のように使うときは、
Aさんがほめられた。
Aさんをほめた。
のように「受身形」で代用することができます。
形態的には対応していないが、意味的には自他の対応をもつ動詞ペア
Aさんがクラスの代表になった。
「二格」をとっているので少し紛らわしいのですが、この場合の「ニ格」は【対象】ではなく【着点(変化の結果)】の用法ですね。
「二格」についてもう少し詳しく…という方は、以下を参照してみてください。
働きかけられる【対象】がないので、「なる」は自動詞です。
また、形態的に対応する他動詞がないので「無対自動詞」なのですが、他動詞のように使いたくても、「なる」は「せる・させる」をつけて使役形にすることができません。
「なる」と意味的に自他のペアとなるのは、「する」です。
先生が、Aさんをクラスの代表にした。
同じように、形態的には対応していないが、意味的に自他の対応がある動詞には「死ぬ・殺す」「できる・作る」などがあります。
病気で、にわとりが死んだ。
食べるために、にわとりを殺した。
立派な作品ができた。
立派な作品を作った。
最後に
いかがでしたか…?
「自動詞」「他動詞」は動詞の分類の方法の1つですが、きちんと理解するためには「格」「文型」の知識も必要です。
以下で解説しているので、ぜひ参照してみてください。