令和2年度 日本語教育能力検定試験の試験問題における
試験Ⅰ 問題3A
の解説です。
お手元に、問題冊子をご用意の上でご確認ください。
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(1) 声帯の振動
その答えになる理由
「声帯」は、「喉頭(こうとう)」と呼ばれる気管の内部にあります。
開閉する一対の筋肉のひだでできており、その隙間である「声門」の状態を変化させることで、声帯の振動を引き起こし、言語音を発生するための声を作る働きをしています。
「喉頭(こうとう)」と似た器官で「咽頭(いんとう)」と呼ばれる部分があります。
「咽頭(いんとう)」は喉頭の上部から口蓋垂の裏側までまたがっており、口蓋垂の裏を咽頭の壁につけたり話したりすることで、鼻腔への通路を開けたり閉じたりします。
そのため、鼻腔が絡む選択肢である2・4は、咽頭の説明のため誤りです。
また、1も声帯振動を確認するためでなく、呼気を確認するためのものなので誤りですね。
3が正解です。
(2) 母音の無声化
解説 母音の無声化
舌の位置が高い「イ」「ウ」は、
- 「八田(はった)」のように、無声音の子音に挟まれたとき
- 「です」のように、無声音の子音のあとで、後続音がないとき
に無声音化しやすいです。
長崎市
ながさきし
/naŋasakiɕi/
また、広母音の「ア」・中母音の「エ」「オ」は、
- 「低高」のアクセントで始まり、
- 同じ母音をもつ無声子音が後続する語頭の「ハ」「ホ」の拍
で無声音化しやすくなります。
墓場
/hakaba/
誇り
/hokori/
実際に声に出してみると、イメージがつきやすいですね。
その答えになる理由
通常、母音は全て声帯振動を伴う有声音ですが、例外的に母音が声帯振動を伴わないで発音されたとき、その母音は無声化されたといいます。
いくつか、特徴を知っていると選択肢を絞りやすくなります。
1つずつ見ていきましょう。
西日本方言に多い、上昇イントネーションでは母音の無声化が起こりにくいのが特徴です。
反対に、東京方言では母音の無声化が起こりやすくなります。
1は、正しい内容です。
長崎
ながさき
低高低低
長崎市
ながさきし
低高高高低
「ながさき」では母音の無声化が起きていませんが、「ながさきし」になると、「きし」/kiɕi/で母音の無声音化が起きています。
母音の無声音化により、アクセント核の位置が変わっていますね。
2は、間違いです。
キツツキ
/kiʦɯʦɯki/
は、ルール通りであれば、最後の母音以外がすべて無声化します。
ただし、実際に声に出してみると……間の母音がすべて無声音化しているわけではなさそうですね。
3は、間違いです。
母音の無声化が起きたとしても、
キツツキ
/kiʦɯʦɯki/
のように、アクセントが変わらなければ、母音が無声音化したとしても発話の意味理解に影響はありません。
4は、間違いです。
(3)適語補充
その答えになる理由
(2)の解説より、舌の位置が高い狭母音「イ」「ウ」は、
- 「八田(はった)」のように、無声音の子音に挟まれたとき
- 「です」のように、無声音の子音のあとで、後続音がないとき
に無声音化しやすいです。
(イ)に来るのは、「文末」ですね。
無声子音のあとで、後続音がない句末・文末のときは、母音が無声音化しやすくなります。
選択肢に出てくる音声記号を確認みると、
[ɾ] | 有声歯茎弾き音 日本語のラ行の子音 |
[n] | 有声歯茎鼻音 日本語のナ・ヌ・ネ・ノの子音 |
[ɸ] | 無声両唇摩擦音 日本語のフ・ファ・フェ・フォの子音 |
[ɕ] | 無声歯茎硬口蓋摩擦音 日本語のシ・シャ・シュ・ショの子音 |
であり、
- [ɸ] 無声両唇摩擦音
- [ɕ] 無声歯茎硬口蓋摩擦音
が無声音の子音ですね。
(ア)に入るのが[ɸ] [ɕ] 、(イ)に入るのが「文末」なので、4が正解です。
(4)広母音・中母音の無声化
その答えになる理由
(1)の解説より、広母音の「ア」・中母音の「エ」「オ」は、
- 「低高」のアクセントで始まり、
- 同じ母音をもつ無声子音が後続する語頭の「ハ」「ホ」の拍
で無声音化しやすくなります。
選択肢は、いずれも「低高」のアクセントで始まっていますね。
1 こう
2 めい
3 かん
4 ほく
2つ目の条件にピッタリなものはないのですが、最も適当なものだと、4が良さそうです。
(5)連濁
解説 連濁
尾+ひれ
→ おびれ
昔+はなし
→ むかしばなし
連濁が起こりにくいパターンも確認しておきましょう。
はる+かぜ
→ × はるがぜ
→ ○ はるかぜ
のように、後ろの語の2拍目に濁音がある場合や
やま+かわ
→ × やまがわ
→ ○ やまかわ
のように、並列関係にある場合は、そのままの形で複合語になることが多いです。
前者のパターンを「ライマンの法則」といいます。
その答えになる理由
わかりやすいのは、3と4から見ていきましょう
3は、ライマンの法則の説明です。
これは、連濁が起こりやすい場合の説明ですね。
また、漢語や外来語に比べて、語頭に濁音の来ない和語の方が連濁が起こりやすくなります。
3と4は、間違いです。
残った1と2を見てみると…
「山と川」といった並列関係の場合は
やま+かわ
→ やまかわ
のように、連濁になりませんが、
「山の川」といった前の語が後ろの語を修飾する場合は
やま+かわ
→ やまがわ
のように、連濁になりますね。
2が正解です。