
令和2年度 日本語教育能力検定試験の試験問題における
試験Ⅰ 問題9
の解説をしていきます。
お手元に、以下をご用意の上で読んでいただければ幸いです。
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前の問題はこちら
問1 臨界期仮説
用語の意味を確認しておきましょう。
解説 臨界期仮説
臨界期仮説とは、レネバーグが唱えた「ある年齢を過ぎる母語話者のような言語能力を習得するのは難しい」という考えのことです。
この年齢(臨界期)は、12・13歳ごろとされています。
その答えになる理由
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
「臨界期仮説」では、大人よりも子どもの方が第二言語の習得が容易だとしているため、1は間違いです。
2は、文章自体は合っています。
敬語であったり場面に合った表現であったりと、大人の方が子どもよりも最終的な到達度は高くなるのは事実です。
「臨界期仮説」に関する記述として…という点では的外れなので、今回の正答にはなりません。
3は、引っ掛けの選択肢ですね。
第二言語習得の初期段階において、大人よりも子どもの方が習得速度が早い分野とそうでない分野があります。
英語教室でイメージしていただくとわかりやすいのですが、
● 発音や簡易な会話…子どもの方が早いことが多い
● 文章の構造や統語…大人の方が早いことが多い
のが一般的です。
3が間違いの理由がわかれば、4が正解だと気づけます。
他の問題と違って「臨界期仮説」という用語だけ知っていても解けないので、受験生によって差が出てしまう問題ですね。
問2 バイリテラル
用語の意味を確認しておきましょう。
解説 バイリテラル
「バイリテラル」とは「2つの言語で『読む』『書く』『聞く』『話す』の4技能ができること」を言います。
その答えになる理由
問1とは打って変わり、用語を知っているか・知らないかだけの問題ですね。
2が正解です。
問3 認知的側面
用語の意味を確認しておきましょう。
解説 認知的側面
「認知的側面」という用語だけ見ても、一般的な単語過ぎてイメージがわきづらいと思います。
そんなときは傍線部だけでなく、傍線部を含む文全体を読んでみましょう。
● 言語的側面
● 認知的側面
という2つの用語が出て来ます。
言語的側面の方がイメージしやすいですね。
日本語の学習であれば、「日本語という言語そのもの」です。
認知とは、事象に対して知識を持っていることを指します。
日本語の学習であれば、「文化や背景などの周辺知識を知っているか」です。
「認知的側面」という単語だけだと難しいのですが、「言語的側面」と対比させると幾分か取っつきやすくなると思います。
その答えになる理由
1のみ言語学習の「言語的側面」、その他は「認知的側面」ですね。
1が正解です。
問4 学習言語能力 CALP
用語の意味を確認しておきましょう。
解説 学習言語能力
「学習言語能力」とは、教科学習など、抽象的思考や行動な思考技術が必要な能力のことです。
用語だけ見ると小難しいのですが、以下の「生活言語能力」の対になるものだと考えるとイメージがしやすくなります。
実際の場面と完全一致はしないため、文脈から推測するのが難しかったり、背景知識の習得が必要になったりで比較的習得に期間が必要です。
解説 生活言語能力 BICS
「生活言語能力」とは、その名の通り、生活場面で必要とされる言語能力のことです。
文脈の支えがあることが多く、身近な事柄でもあるため「学習言語能力」よりも早く身に付けることができます。
※ 特に低年齢の言語教育の場合、「生活言語能力」がついたからといって「学習言語能力」が身に付いたとは限りません。
その答えになる理由
学習言語能力が発揮されるのは際の場面ではないので、状況を認識する必要がある一方で、他の場面でも使える表現を身に付けられています。
そのため、
認知力必要度…高い
場面依存度…低い
となり、4が正解です。
問5 二言語基底共有説
用語の意味を確認しておきましょう。
解説 二言語基底共有説 氷山説 共有基底言語能力モデル CUP
これに限らずなのですが、外国語の論文を翻訳する中で日本語表記が複数ある用語があります。
私は、共有基底言語能力モデル(氷山説)で覚えていました。
「二言語基底共有説(氷山説)」とは、「バイリンガルが2つの言語を習得・使用する場合に、別々に機能しているように見えたとしても、根幹部分は共有している部分がある」という考え方を指します。
片方の言語で抽象度の高い取り組みができたときに、他方の言語でも近しい取り組みが実現できるイメージです。
解説 風船説 分離基底言語能力モデル SUP
用語を覚えるときは、対になるものも一緒に整理してしまいましょう。
「分離言語基底分離説(風船説)」とは、「バイリンガルが2つの言語を習得・使用する場合に、それぞれで培った知識は別々に機能する」という考え方を指します。
脳全体の容量には限界があるため、一方ができるようになると、もう一方が縮小されるイメージです。
その答えになる理由
1が「二言語基底共有説」の内容そのままですね。
これが正解です。
2は「生活言語能力」の説明のため、間違いです。
3は「敷居仮説(閾仮説・敷居理論)」の説明のため、間違いです。
解説は後述します。
4は「二重言語基底分離説(風船説)」の説明のため、間違いです。
解説 敷居仮説 閾仮説 敷居理論
「敷居仮説」とは、カミンズが提唱した「バイリンガルの二言語それぞれの言語習熟度と認知的能力との関係」を説明したものです。
以下の3つに分類されます。
● 均衡バイリンガル
2つの言語習熟度が十分なレベルに達しており、バイリンガルであることが認知的にプラスに働く状態
● 偏重バイリンガル
十分な言語習熟度に達しているのが母語のみのため、バイリンガルであることが認知的にプラスにもマイナスにも働いていない状態
● 限定的バイリンガル
どちらの言語習熟度も十分とは言えず、バイリンガルであることがマイナスに働いている状態