令和4年度 日本語教育能力検定試験の試験問題における
試験Ⅰ 問題1
の解説です。
お手元に、問題冊子をご用意の上でご確認ください。
(1)両唇音
日本語教育能力検定試験のトップバッターは、例年「音声記号」です。
これは、私が過去問を持っている「平成26年度試験」から変更ありません。
その答えになる理由
調音点が「両唇」でないものを選ぶ問題です。
1 [ɱ] 有声唇歯鼻音
2 [m] 有声両唇鼻音
3 [p] 無声両唇破裂音
4 [β] 有声両唇摩擦音
5 [ɸ] 無声両唇摩擦音
1のみ、調音点が「唇歯」ですね。
これが正解です。
近年、日本語の子音にない音が出題される傾向にあります。
言語学を基礎から学んでいないと難しく感じるかもしれませんが、「仲間外れ」を探す問題なので、日本語の子音に使われる音声記号をしっかりと押さえておけば大丈夫です。
(2)鼻母音
解説 鼻母音
「ア」と発音してみると、呼気が口から出てくるのがわかると思います。
この呼気が口(口腔)でなく、鼻(鼻腔)から出てくるようになった鼻音化した母音が「鼻母音」です。
(音声記号だと、[ã]のように表記します。)
ここで覚えておくルールは、2つです。
- 日本語では、撥音「ン」の前の母音は鼻母音になる。
- 撥音自体も、後続音が口腔の閉鎖を伴わない音のときは鼻母音になる。
②の「口腔の閉鎖を伴わない音」とは、
・母音
・半母音
・摩擦音
が該当します。
口腔の閉鎖を伴う「破裂音」「破擦音」が後続する撥音や、語末のような「そもそも後ろの音がない状態」の撥音は、鼻母音にはなりません。
その答えになる理由
今回は全ての選択肢に撥音「ン」が含まれているため、上記解説の①ではなく②を見分ける問題です。
それぞれの撥音「ン」の後続音を見ていきましょう。
1 きげん
2 きんかい
3 さんばい
4 しんあい
5 しんたい
撥音自体が「鼻母音」になるのは「後続音が口腔の閉鎖を伴わない音のとき」でしたね。
1は、撥音「ン」は後続音がないため、鼻母音にはなりません。
2は、撥音「ン」の後ろが破裂音[k]ですね。
破裂音は口腔の閉鎖を伴う音のため、鼻母音にはなりません。
3は、撥音「ン」の後ろが破裂音[b]ですね。
破裂音は口腔の閉鎖を伴う音のため、鼻母音にはなりません。
4は、撥音「ン」の後ろが母音ですね。
母音は口腔の閉鎖を伴わない音のため、撥音「ン」が鼻母音になります。
これが正解です。
5は、撥音「ン」の後ろが破裂音[t]ですね。
破裂音は口腔の閉鎖を伴う音のため、鼻母音にはなりません。
(3)漢字の読み方
その答えになる理由
「職」の読み方は共通して「しょく」なので、後ろの漢字の読み方を見ていきましょう。
1 しょくいき (音読み)
2 しょくいん (音読み)
3 しょくぎょう (音読み)
4 しょくしゅ (音読み)
5 しょくば (訓読み)
5のみ、訓読みですね。
これが正解です。
今回はシンプルな問題でしたが、全て「音読み」だった場合は「呉音」「漢音」「唐音」の識別が必要になります。
(4)熟字訓
その答えになる理由
これは、楽勝ですね。
1 さくじつ/きのう
2 こうよう/もみじ
3 てほん
4 はくはつ/しらが
5 にじっさい/はたち
3のみ、熟字訓での読み方がありません。
これが正解です。
(5)謙譲語の種類
まずは敬語の種類を確認しておきましょう。
敬語の指針では、敬語を以下の5つに分類しています。
解説 尊敬語
いらっしゃる
お忙しい
~られる
などが該当します。
解説 謙譲語Ⅰ
申し上げる
伺う
(立てる相手への)お手紙
などが該当します。
解説 謙譲語Ⅱ(丁重語)
参る
申す
いたす
などが該当します。
解説 丁寧語
です
ます
ございます
などが該当します。
解説 美化語
お料理
お手紙
などが該当します。
その答えになる理由
今回は、「謙譲語Ⅰ」「謙譲語Ⅱ」について聞かれています。
謙譲語Ⅰは、
- 「自分側から相手側または第三者に向かう行為・ものごとについて、その向かう先の人物を立てて述べるもの」
謙譲語Ⅱは、
- 「自分側の行為・ものごとなどを、聞き手・読み手に対して丁重に述べるもの」
でしたね。
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
1の「伺う」は、先生を立てて述べるために使われています。
謙譲語Ⅰが該当します。
2の「いたす」は、聞き手・読み手読み手に対して丁重に述べるために使われています。
謙譲語Ⅱが該当します。
3の「お目にかかる」は、先生を立てて述べるために使われています。
謙譲語Ⅰが該当します。
4の「申し上げる」は、先生を立てて述べるために使われています。
謙譲語Ⅰが該当します。
5の「拝借する」は、先生を立てて述べるために使われています。
謙譲語Ⅰが該当します。
2のみ、謙譲語Ⅱですね。
これが正解です。
(6)非過去形が表す時間的な意味
その答えになる理由
「時間的な意味」なので、テンスの問題ですね。
選択肢の述語が過去・現在・未来のどの時点を表しているのかを見ていきましょう。
1の「ある」は、現在の状態を表しています。
2の「要る」は、現在の状態を表しています。
3の「できる」は、現在の状態を表しています。
4の「落ちる」は、これから起きる未来の出来事を表しています。
5の「分かる」は、現在の状態を表しています。
4が正解です。
(7)「の」の用法
解説 連体助詞「の」の用法
大きく分けて2つの用法があります。
小難しくみえるかもしれませんが、大事なところなので詳しく見ていきましょう。
1つ目は、修飾名詞が被修飾名詞の所属先や性質、基準点を表す用法です。
【所属】私の家
【性質】プラスチックの板
【基準点】自宅の前
「私の家」であれば、修飾名詞が「私」・被修飾名詞が「家」です。
「私」が「家」の所属先を表していることがわかると思います。
2つ目は、修飾名詞が事態を構成する補語にあたる用法です。
彼の発言は、的を得ている。
「彼の発言」であれば、修飾名詞が「彼」・被修飾名詞が「発言」です。
「的を得た発言をしたのは、彼だ」のように言い換えることができることから、修飾名詞である「彼」は「発言する」という事態の補語になっていることがわかると思います。
この用法の場合、被修飾名詞には動作・変化・出来事を表す語が来ます。
連体助詞「の」の用法については、以下で詳しく解説しています。
こちらもあわせてご確認ください。
その答えになる理由
上の解説の1つ目の用法と2つ目の用法の違い…であれば解きやすかったのですが、今回は1つ目の用法の中での区別を聞かれています。
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
1は、個人の所有物などではなく「商品」に分類された「時計」です。
矢印で表すと「商品→時計」ですね。
被修飾名詞「時計」は修飾名詞「商品」という分類に所属しているので、連帯助詞「の」の1つ目の用法「所属」が該当します。
2は、歴史・ビジネスなどの複数ある「本」の分類における「科学」に該当するものです。
矢印で表すと「本→科学」ですね。
「本」の分類の中で、「科学」という「性質」を持っています。
3は、対象が既存製品または新製品と複数ある「企画」の分類における「新製品」に該当するものです。
矢印で表すと「企画→新製品」ですね。
「企画」の分類の中で、「新製品」という「性質」を持っています。
4は、数ある「ガイダンス」の分類における「授業」に該当するものです。
矢印で表すと「ガイダンス→授業」ですね。
「ガイダンス」の分類の中で、「授業」という「性質」を持っています。
5は、演劇・朗読などの色々な「パンフレット」の分類における「映画」に該当するものです。
矢印で表すと「パンフレット→映画」ですね。
「パンフレット」の分類の中で。「映画」という「性質」を持っています。
1のみ「所属」の用法、その他は「性質」の用法です。
安易な言い換えで対応できないあたりが、良い問題ですね。
ガ格・ニ格のような格助詞は押さえてあっても、連体助詞までは覚えていなかった…という受験生が多かったのではないかと思います。
文法に関しては、以下のシリーズがおススメです。
各巻は独立しているので、必要なものから揃えていきましょう。
(8)「ている」の用法
試験Ⅰ 問題1で「ている」が出てきたら、金田一春彦の動詞分類であることが多いです。
解説 金田一春彦の動詞分類
① 状態動詞
●「~ている」をつけなくても状態を表す動詞
●「いる」「ある」「動詞の可能形」など
② 継続動詞(動作動詞)
●「~ている」とともに動きが進行中であることを表す動詞
●「話す」「走る」など
③ 瞬間動詞(変化動詞)
●「~ている」とともに動きの結果を表す動詞
●「消える」「死ぬ」など
④ 第4種の動詞
●必ず「~ている」とともに状態を表す動詞
●「そびえる」「きわだつ」など
そもそもアスペクトとは…?については、以下の記事で詳しく解説しています。
こちらもあわせてご確認ください。
その答えになる理由
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
1の「着る」は、瞬間動詞(変化動詞)です。
「着ている」とすることで、「着る」という動作による状態の変化(結果)を表しています。
2の「染める」は、瞬間動詞(変化動詞)です。
「染めている」とすることで、「染める」という動作による状態の変化(結果)を表しています。
3の「組む」は、瞬間動詞(変化動詞)です。
「組んでいる」とすることで、「組む」という動作による状態の変化(結果)を表しています。
4の「座る」は、瞬間動詞(変化動詞)です。
「座っている」とすることで、「座る」という動作による状態の変化(結果)を表しています。
5の「働く」は、継続動詞(動作動詞)です。
「働いている」とすることで、「働く」という動作が継続していることを表しています。
5のみ継続動詞(動作動詞)ですね。
これが正解です。
(9)接尾辞「型」の意味
解説 接尾辞
私たち
懐疑的
快適さ
同様に、常に他の語に前接して何らかの意味を付加する要素を「接頭辞」といいます。
その答えになる理由
接頭辞…と文法用語が出てくると身構えてしまうかもしれませんが、問題自体はシンプルです。
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
1 いくつかある血液型のうちの「A型」というタイプを表す接尾辞
2 いくつかある気圧配置のうちの「冬型」というタイプを表す接尾辞
3 「♡」という物理的な形
4 いくつかあるゲーム機の形態のうちの「携帯型」というタイプを表す接尾辞
5 いくつかある住宅の分類のうちの「都市型」というタイプを表す接尾辞
3のみ形そのもの、3以外はタイプを表す接尾辞です。
(10)「で」の意味
解説 格助詞「で」の用法
① 場所
公園でキャッチボールをする。
② 手段
ナイフでロープを切る。
③ 起因・根拠
台風で屋根の瓦が飛ばされた。
④ 主体
彼のチームでプロジェクトに臨んだ。
⑤ 限界
先着10名で締め切ります。
⑥ 領域
日本で1番高い山は富士山だ。
⑦ 目的
日本には観光で来ました。
⑧ 様態
校庭をはだしで走った。
今回の問題は、②の「手段」の用法をさらに細分化しています。
②-1 道具
たまねぎを包丁で切った。
②-2 方法
一本足打法でホームランを打った。
②-3 材料
新聞紙で兜を作った。
②-4 構成要素
このプロジェクトは、5人の精鋭で構成されている。
②-5 内容物
体育館は、集まった人でいっぱいだった。
②-6 付着物
泥で靴が汚れた。
その答えになる理由
今回の選択肢は、全て「② 手段」の用法です。
その中でも、どれに該当するのかを見ていきましょう。
1の「色鉛筆」は、「②-1 道具」が該当します。
2の「はだし」は、「②-2 方法」が該当します。
3の「両手」は、「②-1 道具」が該当します。
4の「携帯電話」は、「②-1 道具」が該当します。
5の「片手」は、「②-1 道具」が該当します。
2だけが「手段」の中でも「②-2 方法」の用法ですね。
これが正解です。
格助詞「で」の用法については、以下の記事で詳しく解説しています。
こちらもあわせてご確認ください。
(11)「やすい」の意味
その答えになる理由
「やすい」は漢字だと「易い」ですね。
やわらかくて、食べやすい。
のように、動詞の後ろについて「~するのが簡単だ」を表すところまでは大丈夫かと思います。
「やすい」は、ほかにも
このメーカーの時計は、壊れやすい。
のように、「~する傾向がある」という意味もあります。
選択肢がどちらに該当するかを見ていきましょう。
1 解くのが簡単だ
2 疲れやすい傾向がある
3 壊れやすい傾向がある
4 忘れやすい傾向がある
5 抜けやすい傾向がある
1だけ「~するのが簡単だ」の用法ですね。
これが正解です。
(12)助動詞の意味
その答えになる理由
古典文法の問題ですね。
高校生のときは只々丸暗記していましたが、大学でくずし字を読めるようになってからは、非常に面白い分野でした。
打ち消しの助動詞「ず」
基本形 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
ず | ず ざら | ず ざり | ず | ぬ ある | ね ざれ | ざれ |
推量の助動詞「む」
基本形 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
む | 〇 | 〇 | む | む | め | 〇 |
1 打ち消しの助動詞「ず」の連体形
2 打ち消しの助動詞「ず」の連用形
3 打ち消しの助動詞「ず」の已然形
4 打ち消しの助動詞「ず」の連体形
5 推量の助動詞「む」の連体形(撥音便)
5が正解です。
(13)使役文におけるヲ格名詞の意味
解説 使役文の文型
高校英語で「5文型」を習ったかと思います。
「文型」とは、その名の通り「文のかたち」のことです。
対応する能動文の動詞が「自動詞」の場合、使役文は2種類の文型を取ります。
① もらった野菜が腐った。
→ 私がもらった野菜を腐らせてしまった。
①の場合、使役者(させるヒト・モノ)は「が」・被使役者(させられるヒト・モノ)は「を」で表されることが多いです。
② 雨が降った。
→ 私が雨に降られた。
②の場合、使役者(させるヒト・モノ)は「が」・被使役者(させられるヒト・モノ)は「に」で表されることが多いです。
①②のどちらの文型になるかは、動詞によって異なります。
また、被使役者(させられるヒト・モノ)が「を」「に」の両方の文型を取れる場合もあります。
Aさんが、Bさんを夜中まで働かせた。
Aさんが、Bさんに夜中まで働かせた。
上の例文の方が強制感がありますよね。
被使役者(させられるヒト・モノ)に「を」「に」の両方が用いられる場合、「を」よりも「に」の方が被使役者の意志を尊重して働きかける場合に用いられることが多いです。
対応する能動文の動詞が「他動詞」の場合、使役者(させるヒト・モノ)は「が」・被使役者(させられるヒト・モノ)は「に」で表されます。
③ 英語の本を読んだ。
→ 先生が私に英語の本を読ませた。
③では「を」も出てきますが、この場合の「本」は使役者でも被使役者でもなく、動詞「読む」の補語です。
これらにより、対応する能動文の動詞によって、文型(文のかたち)が異なることがわかると思います。
ここで出てきている「が」「を」「に」は、全て格助詞です。
文法用語で、「ガ格」「ヲ格」「ニ格」と呼ぶこともあります。
格助詞の用法は日本語教育能力検定試験の頻出分野なので、しっかりと押さえておきましょう。
その答えになる理由
解説の通り、使役文の文型は、動詞の種類によって決まります。
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
1の「勧誘する」は、他動詞です。
そのため、ヲ格名詞である「新入部員」は、使役者でも被使役者でもなく、動詞「勧誘する」の補語に当たります。
2の「弾く」は、他動詞です。
そのため、ヲ格名詞である「ギター」は、使役者でも被使役者でもなく、動詞「弾く」の補語に当たります。
3の「書く」は、他動詞です。
そのため、ヲ格名詞である「反省文」は、使役者でも被使役者でもなく、動詞「書く」の補語に当たります。
4の「走る」は、自動詞です。
そのため、ヲ格名詞である「太郎」は、被使役者に当たります。
5の「評価する」は、他動詞です。
そのため、ヲ格名詞である「自分(生徒)」は、使役者でも被使役者でもなく、動詞「評価する」の補語に当たります。
4だけ文型が違いますね。
これが正解です。
「補語」については、以下の記事で詳しく解説しています。
こちらもあわせてご確認ください。
(14)接尾辞の活用
その答えになる理由
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
1の「家族ぐるみで」は、ナ形容詞(形容動詞)「家族ぐるみだ」の連用形です。
2の「涙ぐんで」は、動詞「涙ぐむ」の連用形です。
3の「汗ばんで」は、動詞「汗ばむ」の連用形です。
4の「痛がって」は、動詞「痛がる」の連用形です。
5の「春めいて」は、動詞「春めく」の連用形です。
全て連用形ですが、1のみ品詞が異なります。
これが正解です。
(15)引用節の種類
解説 引用節
彼は私に結婚しようと言った。
彼が犯人であるように思える。
「と」は発言や思考に関わる述語とともに用いられ、「よう(に)」は命令・依頼・祈願などを表す述語や思考に関わる述語とともに用いられます。
その答えになる理由
今回は「と」なので、引用節の内容が「発言」なのか「思考」なのかを見ていきましょう。
1は、実際に「今すぐ買える」と発言しています。
2は、実際に「信じられない」と発言しています。
3は、実際に「疲れているんだ」と発言しています。
4は、実際に「いつか留学する」と発言しているわけではなく、頭の中で決心しているだけです。
5は、実際に「一緒に食事をしないか」と発言しています。
4のみ引用節の内容が「思考」ですね。
これが正解です。