
令和4年度 日本語教育能力検定試験の試験問題における
試験Ⅲ 問題5
の解説をしていきます。
お手元に、以下をご用意の上で読んでいただければ幸いです。
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前の問題はこちら
問1 「レディネス調査」の結果を基に教師が行うこと
解説 コース設計(コースデザイン)
「コース設計(コース・デザイン)」とは、学習者の目標達成のために何を・どのように教えて、どう評価するかを決めて、コース全体の計画を立てることです。
さまざまなやり方がありますが、一例では
① 学習者の背景調査・分析(ニーズ/レディネス調査・分析)
② 目標言語の調査(コースの目標設定)
③ ②のために必要な学習内容の設定(シラバス・デザイン)
④ コース実施に必要な事柄の設定(カリキュラム・デザイン)
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といった流れで計画を立てていきます。
解説 ニーズ調査・分析
「ニーズ調査・分析」とは、コースデザインにあたり、学習者がどのような日本語を必要としているかを調査・分析することです。
● どのような場面で使う日本語を学びたいか?
● どのレベルまでの習得を目指したいか?
● 4技能(読む・聞く・書く・話す)のうち特に必要とされるのはどれか?
などを把握することを目的としています。
解説 レディネス調査・分析
「レディネス調査・分析」とは、コースデザインにあたり、学習者の日本語学習に対する準備態勢がどのような状況にあるのかを調査・分析することです。
●外的条件
・学習者の国籍や母語
・学習者の時間的/経済的制約 など
●内的条件
・外国語学習の経験有無
・(既習者に対しての)学習総時間数 など
を把握することを目的としています。
その答えになる理由
全体のコース・デザインを行うにあたり、学習者の日本語学習に対する準備態勢がどのような状況にあるのかを調査・分析するのが「レディネス調査」です。
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
1のような「学習者が希望する時間帯」は、レディネス調査でヒアリングする外的条件の1つです。
レディネス調査の結果を踏まえて行う対策についても、適切な内容ですね。
1が正解です。
2のように「学習者や会社側が希望する到達目標」は、ニーズ調査でヒアリングする項目の1つです。
対策については適切ですが、レディネス調査の結果を踏まえての内容ではないので2は間違いです。
3のような「テキストの選定」は、ニーズ調査でヒアリングする項目の1つです。
対策については適切ですが、レディネス調査の結果を踏まえての内容ではないので3は間違いです。
4のような「学習者が求めている日本語の内容」は、ニーズ調査でヒアリングする項目の1つです。
対策については適切ですが、レディネス調査の結果を踏まえての内容ではないので4は間違いです。
問2 「ニーズ調査」で行う質問
その答えになる理由
「今、どのような状態で・何ができるか?」を把握するのが「レディネス調査」、「これから、どのような状態になって・何ができるようになりたいのか?」を把握するのが「ニーズ調査」です。
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
1は「今、何ができるか?」の内容ですね。
これは「ニーズ調査」ではなく「レディネス調査」でヒアリングする項目です。
2は「今、どのような機器を使えるか?」の内容ですね。
これは「ニーズ調査」ではなく「レディネス調査」でヒアリングする項目です。
3は「これから、どの技能が必要なのか?」の内容ですね。
これが「ニーズ調査」でヒアリングする項目です。
4は「今、どのような学習観を持っているのか?」の内容ですね。
これは「ニーズ調査」ではなく「レディネス調査」でヒアリングする項目です。
3が正解です。
問3 タスクシラバス
解説 シラバス
「シラバス」とは、コース内での学習項目一覧のことです。
「シラバス」は、何を基準にどんな項目を集めたかの点において
● 構造シラバス
● 機能シラバス
● 技能シラバス (スキル・シラバス)
● 場面シラバス
● 話題シラバス (トピック・シラバス)
● 課題シラバス (タスク・シラバス)
に分類されます。
解説 構造シラバス
「構造シラバス」とは、学習言語を文法や語彙の面から分析し、基礎的な内容から複雑な内容へと言語形式を重視して積み上げ式に配列したシラバスのことです。
構造主義言語学の考え方に基づいています。
言語を体系的に学べる一方で、実際のコミュニケーションで使う表現がすぐに学べないというデメリットもあります。
解説 機能シラバス
「機能シラバス」とは、言語を依頼・謝罪・勧誘などの「機能」の面から考え、それを中心に教えていくシラバスのことです。
実際のコミュニケーションにおける運用力が身に付く一方で、基礎的な文法や言語構造を体系的に学ぶのが難しいというデメリットもあります。
解説 技能シラバス (スキル・シラバス)
「技能シラバス」とは、「読む」「書く」「聞く」「話す」の言語の4技能それぞれの熟達を目指すシラバスのことです。
各技能を細分化し、学習者にとって必要なものを重点的にシラバス化していきます。
「書く」であれば、「単語の書き取り→短い文章を書く→長めの文章を書く→作文を書く」のように段階化するイメージで、副教材として他のシラバスとの併用される場合が多くあります。
解説 場面シラバス
「場面シラバス」とは、「飲食店で注文する」「病院を受診する」などの学習者が実際に行う場面を想定し、そこで必要になる語彙や表現を中心に集めたシラバスのことです。
学んだことがすぐに活かせる一方で、文法を体系的に学ぶわけではないため、最初から複雑な文構造が出てくる場合もあるというデメリットもあります。
解説 話題シラバス (トピック・シラバス)
「話題シラバス」とは、「就職」「カルチャー」など学習者のニーズや関心事の話題を取り上げ、それに関する表現や語彙を学ぶためにシラバスのことです。
学習者のニーズ・関心と合致していれば、学習動機が教科されて高い学習効果が期待できます。
解説 課題シラバス (タスク・シラバス)
「話題シラバス」とは、実際のコミュニケーションにおける行動を分析し、そこで行われるタスク内容をシラバス化したものです。
「病院の受診」であれば、「予約の電話をする→受付で症状を話す→診察してもらう」の中でそれぞれのタスクを遂行するために必要となる表現を学ぶイメージです。
その答えになる理由
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
1では「企画を立てる」のように、実際のビジネスの場で必要な行動を項目化してシラバスを作成しています。
これが「課題シラバス(タスクシラバス)」の内容です。
2では「説明する」のように、機能の面から捉えてシラバスを作成しています。
これは「機能シラバス」の内容です。
3では「金融政策」のように、学習者の担当業務や、現場で話題になるテーマを基にシラバスを作成しています。
これは「話題シラバス(トピックシラバス)」の内容です。
4では「会議」のように、学習者が実際に遭遇する場面を想定してシラバスを作成しています。
これは「場面シラバス」の内容です。
問4 カリキュラムデザイン
その答えになる理由
問1の解説より、「カリキュラムデザイン」で行うのはコース実施のために必要な事柄の設定です。
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
1のように、「レディネス調査」で把握した学習者の業務状況を基に、具体的な授業のコマ数や1コマで進む進度を決めていくのは「カリキュラムデザイン」で行うことの1つです。
2のように、「シラバスデザイン」で学習内容を決めたあとに具体的な授業の進め方を決めていくのは「カリキュラムデザイン」で行うことの1つです。
3のように、「シラバスデザイン」でビジネス文書を取り扱うことを決めたあとに具体的な文書の種類を決めていくのは「カリキュラムデザイン」で行うことの1つです。
4のように、「そもそも何を学習するのか」を決めるのは「カリキュラムデザイン」よりも前のステップである「シラバスデザイン」で行います。
4が「カリキュラムデザイン」の例として不適当です。
問5 ビジネスに従事する学習者の特性
その答えになる理由
アカデミックな日本語を勉強する留学生と比べて、ビジネスに従事する学習者が異なる点はどこかを聞かれています。
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
ビジネスでは、言語使用の正確さよりも、意図が相手に伝われば良いという実用性が重視されます。
内容が逆になっているので、1は間違いです。
日本語の勉強に時間をかけることができる留学生と比べて、ビジネスに従事する学習者は学習自体に大きく時間を割くことができません。
費用体効果が必要になってくるため、2は正しいです。
ビジネスに従事する学習者は、「幅広く」よりも「必要な部分だけをコンパクトに」を求める傾向にあります。
アカデミックな日本語を勉強する留学生の内容になっているので、3は間違いです。
ビジネスに従事する学習者は、日本語運用能力よりも「その学習内容が業務で使えるか」のような業務遂行能力を重視します。
両者を等しく向上させることが目的にはなっていないので、4は間違いです。