
令和4年度 日本語教育能力検定試験の試験問題における
試験Ⅲ 問題6
の解説をしていきます。
お手元に、以下をご用意の上で読んでいただければ幸いです。
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前の問題はこちら
問1 導入
その答えになる理由
初級前半レベルでの「~ている」の導入ですね。
今回は、「あくまで『導入』で行うこと」として適当なものを選ぶことがポイントです。
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
「~ている」は動詞のテ形への接続です。
動詞のテ形は「書く→書いている(イ音便)」のように音便が現れたり、「飛ぶ→飛んでいる(撥音便)」のように「~でいる」になったりします。
1は内容自体は合っているのですが、コミュニケーション能力の育成を重視するとあるので、この場合の「導入に行うこと」としては不適当です。
これは導入ではなく、導入後の練習で行う内容ですね。
2のように、どのような場面で使うかを会話などで見せることで、直接的に文型の意味を伝えるのではなく、学習者自身に考えさせることができます。
初級前半レベルでの「導入」として、2が適当な内容です。
3のように、導入文型「~ている」と新出語彙の両方を同時に提示するのは、初級前半レベルには重たいですね。
教師に続いてリピートさせるのは有効な方法なので、既出語彙を使って導入文型「~ている」をリピートさせるのが良いと思います。
初級前半レベルでの「導入」として、3は不適当です。
導入の「最初の最初」では例文は1つでも良いですが、練習に移る前の「導入全体」では複数の例文があった方が良いですね。
特に「~ている」は、前述のようにテ形に接続する関係で「音便」が現れるので、1つの例文では不十分です。
初級前レベルでの「導入」として、4は不適当です。
問2 オーディオ・リンガル・メソッド
解説 オーディオ・リンガル・メソッド
「オーディオ・リンガル・メソッド」とは、フリーズが提唱した教授法で、行動主義心理学・構造主義言語学を背景としています。
● 音声言語の優先
● 入門期から、話すことを重視
● 語彙数を制限して、文法の習得に重点を置く
● ミムメム練習(新しく提示された語彙・文型を、教師に従って正しい発音で模倣する練習)
● パターン・プラクティス
など、反復や文型習得のための練習を多く取り入れたことに特徴があります。
その答えになる理由
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
「オーディオ・リンガル・メソッド」では、文字言語よりも音声言語を優先し、反復練習を重視することで母語話者と同様に話せることになることが学習目的となります。
1が正解です。
「オーディオ・リンガル・メソッド」では、決められた語彙を使った文型を繰り返し練習することで文法の習得を目指します。
その際、文型の正確性が重視されるので、少しの誤りであっても許容されません。
2は間違いです。
「オーディオ・リンガル・メソッド」では、決められた文型を反復練習することで、できるだけ早く母語話者と同じように話せるようになることを目指します。
その際、文型・文法のレベルを簡単なものから難しいものへ積み上げていくので、学習者のニーズは考慮されません。
3は間違いです。
「オーディオ・リンガル・メソッド」では、文字言語よりも音声言語が優先されます。
4は間違いです。
問3 TPR(Total Physical Response)を行う際の留意点
解説 TPR (Total Physical Response)
「TPR(全身反応教授法)」とは、心理学者のアッシャーが提唱した、教師の指示に対して全身を使って応答する活動を行う教授法のことです。
左脳(知的作業)と右脳(身体的作業)の両方を活性化させることで、言語習得が進んでいくとされています。
その答えになる理由
「TPR」では、「書いている」「座っている」のように教師が指示した内容を学習者が実践することで文型の定着を図ります。
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
「TPR」では、「座っています」だけでなく「立っています・座っていません」のように否定形での指示を出すことも可能です。
1は「TPR」を行う際の留意点として不適当です。
「TPR」は、「書く」「座る」のような動作の語彙は導入しやすい反面、「夢」「心配」などの抽象的な語彙や心理的な語彙は導入しにくいというデメリットがあります。
2は「TPR」を行う際の留意点として不適当です。
「TPR」は、「書いている」「座っている」のように教師が指示した内容を学習者が実践することで言語習得を図りますが、学習者によっては稚拙な印象を与えてしまうこともありえます。
その場合は、「TPR」に無理に拘ることなく、ほかの教授法も検討した方が良いですね。
3は「TPR」を行う際の留意点として不適当です。
「TPR」では、「書いている」「『日本語教育』と書いている」のように、語を足していくことで簡単な作業から複雑な作業へと移行させることができます。
逆にいきなり複雑な作業を指示すると学習者が混乱してしまうので、きちんと段階を踏んだ方が良いですね。
4は「TPR」を行う際の留意点として適当です。
問4 教具
その答えになる理由
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
「さ」「そ」「ち」のようにフォントによって線が繋がっていたり・離れていたりする文字は学習者が混乱する内容の1つです。
板書するときは教科書の字体に合わせた方が良いのですが、学習者が教科書以外で目にしたときに「同じ字だ」と認識できるように、異なるフォントのものを並べてみせるなどして教えておいた方が良いですね。
1は「教具」を使う際の留意点として適当です。
「食べる→食べて」のように活用語尾を視覚的に目立たせることによって、「捨てる→捨てて」のように同様の活用がやりやすくなります。
2は「教具」を使う際の留意点として適当です。
絵カード自体は動画を使用しなくても場面での導入ができる使い勝手の良いものなのですが、内容が伝わりにくい場合には「絵カード」だけにこだわる必要はありません。
その際は、別の方法の併用も検討した方が良いですね。
3は「教具」を使う際の留意点として適当です。
中学生・高校生の頃にいましたね…板書が取っ散らかっている先生…。
ノートをきれいにまとめたい派だったので、このタイプの先生は苦手でした。
「臨機応変」と聞くと良さげに見えるのですが、基本的には計画通りに板書し、学習者から疑問が出た際には臨機応変に対応する方が良いですね。
4は「教具」を使う際の留意点として不適当です。
問5 不安
その答えになる理由
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
学習者同士での能力の比較ができるようにすることは、かえって学習者の不安を増大させることにつながります。
1は間違いです。
1人で発表するよりも複数人での作業にした方が不安軽減につながりますね。
ただし、今回の問題は初級前半レベルです。
学習者同士での間違いの指摘は難しく、ペアワーク・グループワークでできることは限定されてしまうのではないでしょうか。
2は完全に間違いではないのですが、最も適当かと言われると微妙ですね。
間違った発言をすることで、教師や他の学習者にどう思われるかが不安だ…というのは学習者のレベルに関係なく、どこでも起こりえます。
授業のスタンスとして、間違うことでより定着していくことを定期的に伝えていくのは非常に良いことですね。
3が最も適当です。
ビジネスにおけるコーチングなんかでは、全体の場での間違いの指摘は避けて個別の場で…というのはよくあることなのですが、教育では仕方に注意は必要なものの、その場での間違いの指摘自体は必要ですね。
4は間違いです。