【令和5年度 日本語教育能力検定試験 過去問】試験Ⅰ 問題5の解説!

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令和5年度 過去問解説

令和5年度 日本語教育能力検定試験の試験問題における

 試験Ⅰ 問題5

の解説をしていきます。

お手元に、問題冊子をご用意の上で読んでいただければ幸いです。

※ 執筆時点では、公式からの解答は出ていません。参考程度にご確認ください。

前の問題はこちら

問1 熟達度テスト

解説 到達度テスト(アチーブメント・テスト)

「到達度テスト」とは、測定する内容に注目した分類の1つで、一定期間の学習内容がどれだけ習得できているかを測るテストのことです。

中間試験・期末試験のような授業で学んだ内容の理解をチェックするテストが該当します。

解説 熟達度テスト(プロフィシエンシー・テスト)

「熟達度テスト」とは、測定する内容に注目した分類の1つで、その時点でのできること・できないことを測るテストのことです。

TOEICや日本語能力試験のように特定の教科書がベースになることはなく、ざっくりとした出題内容だけが提示されています。

その答えになる理由

選択肢を1つずつ見ていきましょう。

成績を付ける・指導が適切だったかを検証するためのテストは、「到達度テスト」ですね。
1は間違いです。

予め学習内容が設定され、それをどの程度習得できたのかを測るのは、「到達度テスト」ですね。
2は間違いです。

出題範囲の指定がなく、問題ごとに範囲も難易度も異なるのが「熟達度テスト」の特徴ですね。
3が正解です。

「相対評価」とは、個人のレベルを集団内の他者と比較し評価する方法で、集団の中で何番目かによって評価が決まります。
また、「絶対評価」とは、個人のレベルを定められた目標の基準によって評価する方法で、目標への達成度で評価が決まります。

「100人いるうちの20番以内であれば、A評価」のときは「相対評価」・「得点率70%以上であれば、それが何人いたとしてもA評価」のときは「絶対評価」です。

「到達度テスト」「熟達度テスト」は、あくまで測定する内容に注目した分類なので、評価方法に縛りはありません。

「上位20%だけが合格」という相対評価・「得点率70%以上は全員合格」という絶対評価のどちらも可能なので、4は前半が間違いです。

問2 テストの細目表を作る利点

解説 細目表

テスト設計における「細目表」とは、↓のような測定したい知識・能力を羅列したもののことです。

【各区分における測定内容】

区  分求められる知識・能力
社会・文化・地域 日本や日本の地域社会が関係する国際社会の実情や、国際化に対する日本の国や地方自治体の政策、地域社会の人びとの意識等を考えるために、次のような視点と基礎的な知識を有し、それらと日本語教育の実践とを関連づける能力を有していること。
● 国際関係論・文化論・比較文化論的な視点とそれらに関する基礎的知識
● 政治的・経済的・社会的・地政学的な視点とそれらに関する基礎的知識
● 宗教的・民族的・歴史的な視点とそれらに関する基礎的知識
言語と社会 言語教育・言語習得および言語使用と社会との関係を考えるために、次のような視点と基礎的な知識を有し、それらと日本語教育の実践とを関連づける能力を有していること。
● 言語教育・言語習得について、広く国際社会の動向からみた国や地域間の関係から考える視点とそれらに関する基礎的知識
● 言語教育・言語習得について、それぞれの社会の政治的・経済的・文化的構造等との関係から考える視点とそれらに関する基礎的知識
● 個々人の言語使用を具体的な社会文化状況の中で考える視点とそれらに関する基礎的知識
言語と心理 言語の学習や教育の場面で起こる現象や問題の理解・解決のために、次のような視点と基礎的な知識を有し、それらと日本語教育の実践とを関連づける能力を有していること。
● 学習の過程やスタイルあるいは個人、集団、社会等、多様な視点から捉えた言語の習得と発達に関する基礎的知識
● 言語教育に必要な学習理論、言語理解、認知過程に関する心理学の基礎的知識
● 異文化理解、異文化接触、異文化コミュニケーションに関する基礎的知識
言語と教育 学習活動を支援するために、次のような視点と基礎的な知識を有し、それらと日本語教育の実践とを関連づける能力を有していること。
● 個々の学習者の特質に対するミクロな視点と、個々の学習を社会の中に位置付けるマクロな視点
● 学習活動を客観的に分析し、全体および問題の所在を把握するための基礎的知識
● 学習者のかかえる問題を解決するための教授・評価等に関する基礎的知識
言語 教育・学習の対象となる日本語および言語一般について次のような知識・能力を有し、それらと日本語教育の実践とを関連づける能力を有していること。
● 現代日本語の音声・音韻、語彙、文法、意味、運用等に関する基礎的知識とそれらを客観的に分析する能力
● 一般言語学、対照言語学など言語の構造に関する基礎的知識
● 指導を滞りなく進めるため、話し言葉・書き言葉両面において円滑なコミュニケーションを行うための知識・能力
公益財団法人 日本国際教育支援協会 日本語教育能力検定試験 出題範囲等

テストを作成する上で必要となる項目を整理することで、テスト全体の設計図の役割を果たすことができます。

解説 識別力

「識別力」とは、テストにおいて、設問が正しく学習者の能力を識別できているかの度合いのことです。

ある設問に対して、
 総合得点が高い学習者は、正解できている
 総合得点が低い学習者は、間違えている
のであれば、その設問は識別力が高いと言えます。

その答えになる理由

選択肢を1つずつ見ていきましょう。

細目表を他の教師と共有することで、細目表のこの内容はA先生・こちらはB先生…のように作成作業を分担することができます。
1は、テストの細目表を作る利点として適当です。

細目表を作っておくことで、「この内容多いよね…?」「この内容抜けていない…?」といった出題の偏りを減らすことができます。
2は、テストの細目表を作る利点として適当です。

3と4で迷った人が多いのではないでしょうか?
100%の自信ではないのですが、私は4を選びました。

日本語教育能力検定試験の出題範囲にある「言語」という項目名だけ見ても、どのような問題が出題されるかのイメージがつきにくいのですが、

教育・学習の対象となる日本語および言語一般について次のような知識・能力を有し、それらと日本語教育の実践とを関連づける能力を有していること。
● 現代日本語の音声・音韻、語彙、文法、意味、運用等に関する基礎的知識とそれらを客観的に分析する能力
● 一般言語学、対照言語学など言語の構造に関する基礎的知識
● 指導を滞りなく進めるため、話し言葉・書き言葉両面において円滑なコミュニケーションを行うための知識・能力

公益財団法人 日本国際教育支援協会 日本語教育能力検定試験 出題範囲等

のように細目表の項目を見ると、具体的な準備をするための参考になりますね。
3は、テストの細目表を作る利点として適当です。

4にある「識別力」とは、テストにおいて、設問が正しく学習者の能力を識別できているかの度合いのことです。

総合得点が90点のAさん・30点のBさんがいたとして…

問題1は、Aさんは正解・Bさんは不正解
問題2は、Aさんは不正解・Bさんは正解

だったとします。

問題1は、総合得点が高いAさんが正解・低いBさんが不正解なので、識別力が高い問題です。
問題2は、総合得点が高いAさんが不正解・低いBさんが正解なので、識別力が低い問題ですね。

このように、設問ごとの「識別力」を算出するために必要なのは
各受験生の総合得点
各受験生の設問ごとの○×
のデータです。

問題1は細目表の【●●できる】・問題2は細目表の【▲▲できる】という項目を測るため…のように、細目表の項目ごとの正解率のデータを作ることはできますが、「各問題の識別力を算出するためのデータ」としては関係ありません。

4は、テストの細目表を作る利点として不適当です。
令和3年度試験でも出題された「識別力内容わかっているか?」がポイントですね。

ただ、「3が不適当でないか…!!」と考えるのも理解できます。

教育・学習の対象となる日本語および言語一般について次のような知識・能力を有し、それらと日本語教育の実践とを関連づける能力を有していること。
● 現代日本語の音声・音韻、語彙、文法、意味、運用等に関する基礎的知識とそれらを客観的に分析する能力
● 一般言語学、対照言語学など言語の構造に関する基礎的知識
● 指導を滞りなく進めるため、話し言葉・書き言葉両面において円滑なコミュニケーションを行うための知識・能力

公益財団法人 日本国際教育支援協会 日本語教育能力検定試験 出題範囲等

のような細目表であれば、学習者がテスト準備のためのガイドラインにすることができるのですが、

● キーワードがわかる
● 文章のテーマがわかる
● 文中の修飾関係が読み取れる

のような細目表もあるんですよね。。
これだと、「抽象的すぎて、何を勉強すれば良いかわからない」となると思います。

細目表を作ることで学習者がテスト準備のガイドラインにできるかは、細目表の具体性によって変わります。
できる場合も・できない場合もあるので、3のように「できる」と言い切っているのは不自然ですね…!!

・ 3は、適当・不適当のどちらとも取れる
・ 4は、識別力を算出するためには細目表の項目は必要ないので不適当
ということで、4を選びました。

問3 信頼性を損なう行為

解説 テストの妥当性

テストの「妥当性」とは、得点から受験生の能力を適切に測ることができるかが目安となります。

後述の「信頼性」や「客観性」が低いと、連動して「妥当性」も低くなります。

解説 テストの信頼性

テストの「信頼性」とは、あるテストを使って同じ能力を測った場合に安定した結果が得られるかが目安となります。

「レベルが同じ2つのクラスに同じテストを行ったときに、片方の平均点は80点・もう片方の平均点は30点…」という場合は、「信頼性」が低いテストだと言えます。

解説 テストの客観性

テストの「客観性」とは、誰が採点しても同じ結果になるかが目安となります。

「A先生が採点したら○だが、B先生だと×…」という場合は、「客観性」が低いテストだと言えます。

解説 テストの有用性

テストの「有用性」とは、そのテストにおける効率性と実用性の2つの側面が十分かが目安となります。

「内容は良いが、記述問題が多くて採点が大変…」という場合は、「有用性」が低いテストだと言えます。

その答えになる理由

テストの「信頼性」とは、あるテストを使って同じ能力を測った場合に安定した結果が得られるかが目安となります。

選択肢を1つずつ見ていきましょう。

同じテストを受けるのに、あるクラスでは題材として取り扱ったが、別のクラスではまだ…では不公平ですよね。
信頼性を担保するためには、受験生全員が共有する(もしくは全員が共有していない)題材にする必要があります。
1は、「信頼性を損なう行為」の例として不適当です。

同じテストを受けるのに、Aさんは文法問題が苦手なのによく頑張った!点数2倍!…では不公平ですよね。
同じテストであれば、全員同じ採点方法でないと信頼性を担保することができません。
2は、「信頼性を損なう行為」の例として適当です。

「○×の2択問題」と「1~4の4択問題」だと、勘で答えても正解できる確率が高いのは「○×の2択問題」ですね。
信頼性は「あるテストを使って同じ能力を測った場合に安定した結果が得られるか」が目安となるので、勘で正解できる確率を減らすことは、信頼性を担保するための有効な手段だと言えます。
3は、「信頼性を損なう行為」の例として不適当です。

採点者による採点結果の違いをなくすのは、テストの「客観性」に関連する内容ですね。
「あれ…信頼性の内容ではないの?」となるかもしれませんが、信頼性は「あるテストを使って同じ能力を測った場合に安定した結果が得られるか」が目安となるので、「客観性」が高まると連動して「信頼性」も高まります。
4は、「信頼性を損なう行為」の例として不適当です。

問4 実用性や波及効果に関する記述

解説 テストの実用性

テストにおける「実用性」は、「有用性」を考えるときの側面の1つです。

テストの「有用性」は、そのテストにおける「効率性」と「実用性」の2つの側面が十分かが目安となり、「実用性」では、テストの作成・実施・採点などの負担が大きくないかがポイントになります。

どれだけ素晴らしい内容であっても、問題を作成するのに莫大な費用がかかる…だと「実用性」が低いテストだと言えます。

解説 ウォッシュバック効果

今回の「波及効果」は、言語教育における「ウォッシュバック効果(washback effect)」のことを指しています。

「ウォッシュバック効果」とは、学力を測るテストの内容やその評価が、逆に学習方法・教育方法に与える影響のことです。
「○○を教えた→○○をテストで確認しよう」ではなく、「○○をテストに出す→○○を勉強しよう・させよう」をイメージしてもらうと、わかりやすいと思います。

「中高生が英語の授業を受けているのに、なかなか話せるようにならない…」というのは、高校入試・大学入試で問われる能力が「Listening」「Reading」「Writing」だけだから…という説がありますね。
これは、試験で聞かれる部分を中心に学習・教育する「ウォッシュバック効果」によるものだと考えられています。

その答えになる理由

1・2が「実用性」に関する内容、3・4が「ウォッシュバック効果」に関する内容です。
選択肢を1つずつ見ていきましょう。

「実用性」で主に関わるのは、問題を作成・実施・採点する教師側(運営側)の金銭的・人員的事情です。
「試験が東京でしか開催されないので、地方住みだと交通費がかさむ…」のように生徒側(受験側)の事情が絡むこともありますが、「受験することで学習者のモチベーションが変わるか」は実用性に関係ありません。

1は間違いです。

「テストが測るべき能力を実際に測れているかどうか」は、実用性ではなく「妥当性」に関わる内容ですね。
2は間違いです。

3は、「ウォッシュバック効果」の内容そのままですね。
これが正解です。

「テストの出題範囲が授業目標に合致している」ことで、きちんと授業を受けていた生徒は高得点になるはずです。
「得点から受験生の能力を適切に測ることができるか」なので、「妥当性」に関わる内容ですね。
4は間違いです。

問5 S-P表

解説 S-P表

「S-P表」とは、縦軸に生徒(Student)・横軸に設問(Problem)を配置した表のことです。

各項目は正答数の多い順に並べ替えられており、生徒の得点分布を表すS曲線(太線)と問題の正答率分布を表すP曲線(点線)を表すことで、
・ 生徒の学習/理解状況
・ 教師の指導方法
などの質的な評価情報を視覚的に得ることを目的に作成されています。

その答えになる理由

「S-P表」の数字に計算を加えることなく得られる情報を考えていきましょう。

統計学における「相関関係」とは、一方の数値が増加すると、もう一方の数値が減少または増加する関係のことです。
単純に「各項目の点数が上がる→テスト全体の得点も上がる」というものではないので注意しましょう。
テストの「信頼性」が低い場合は、「総合点が高い人の中でも、正解した問題がバラバラ」ということもありえます。
もう1歩踏み込んで計算する必要があるので、1は間違いです。

学習者Oは、問題10に対して正当数10なので、10/10で正答率が100%
学習者Iは、問題10に対して正当数7なので、7/10で正答率が70%
です。
表の数字に計算を加える必要があるので、2は間違いです。

「同一の特性」とは、細目表における同一項目のことを指しているのではないかと思います。
「問1」「問5」という項目を見るだけではわからないので、問題文を確認する必要がありますね。

3は間違いです。

学習者が20人いる中で、問1は18人が正解しているのに対して、問4を正解したのは2人だけです。
また、設問が10ある中で、学習者Oは全問正解していますが、学習者Bは2問しか正解できていません。
このように、S-P表から全体の傾向から外れた質問項目や学習者を視覚的に把握することができます。
表の数字に計算を加えることなく情報を得られるので、4が正解です。

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