令和4年度 日本語教育能力検定試験の試験問題における
試験Ⅰ 問題11
の解説です。
お手元に、問題冊子をご用意の上でご確認ください。
前の問題はこちら
問1 ガ行鼻濁音
解説 鼻濁音
ガ行を [g] 有声軟口蓋破裂音で発音するのは、基本的に語頭のときのみです。
- ガイコツの「ガ」は、[g] 有声軟口蓋破裂音
- マンガの「ガ」は、[ŋ] 有声軟口蓋鼻音
今回の問題では触れられていませんが、以下も覚えておきましょう。
語中や語尾では [ŋ] 有声軟口蓋鼻音で発音するのですが、①~③の場合には [g] 有声軟口蓋破裂音ではなく、[ŋ] 有声軟口蓋鼻音で発音します。
- 助詞の「が」
- 「大会社」のような連濁によって生じた場合
- 「小学校」「中学校」のような結びつきが強い複合語中
②の連濁とは、
「くさ」+「はな」→「くさばな」
のように、複合語において濁音をもった異形態が後半の語に現れる現象のことです。
その答えになる理由
上記解説より、共通語のガ行子音は
- 語頭 … [g] 有声軟口蓋破裂音
- 語中・語尾 … [ŋ] 有声軟口蓋鼻音
で発音します。
4が正解です。
問2 音韻変化
解説 タ行子音の音韻変化
その後は、有力資料がなかったのですが、16世紀に入って『日本国考略』『寄語略』などで「チ」「ツ」に破擦音系統の漢字「止」「子」を当てる場合が出始めたため、この頃に破裂音→破擦音へと変化していったことが推測できます。
現在の共通語では、
- 「タ・テ・ト」の子音 … [t] 無声歯茎破裂音
- 「チ」の子音 … [ʨ] 無声歯茎硬口蓋破擦音
- 「ツ」の子音 … [ʦ] 無声歯茎破擦音
ですね。
解説 ハ行子音の音韻変化
現在の共通語では、
- 「ハ・へ・ホ」の子音 … [h] 無声声門摩擦音
- 「ヒ」の子音 … [ç] 無声硬口蓋摩擦音
- 「フ」の子音 … [Φ] 無声両唇摩擦音
ですね。
解説 四つ仮名の混同
この混同は、ロドリゲスによる『日本大文典』などでも確認されています。
現在では完全に合流し、「ヂ・ジ」は
- 語頭 … [ʥ] 歯茎硬口蓋破擦音
- 語中・語尾 … [ʑ] 歯茎硬口蓋摩擦音
「ヅ・ズ」は
- 語頭 … [ʣ] 有声歯茎破擦音
- 語中・語尾 … [z] 有声歯茎摩擦音
のように、同じ音で発音されるようになりました。
解説 ワ行の音韻変化
現在「ワ行」には表記上「ワ」「ヲ」がありますが、「ヲ」はア行の「オ」と音声的に区別されず、[o] と発音されています。
「ヲ」と「オ」の合流は、[wo]に合流したとされていたとするのが通説です。
「ヱ」「エ」などの合流よりも早く、11世紀末には完了していたようです。
現在の共通語では「ヲ」は [wo]で発音されていますが、[wo]→[o]に変化した時期は、はっきりとわかっていません。
1771年の『謳曲英華抄』では「オ」の発音は[wo]が正しい…と言及されているので、当時の上方語においては「オ」が[wo]で発音されていなかった([o]で発音されていた?)ということが示唆されています。
その答えになる理由
上記解説より、万葉仮名の時代のハ行音は
- [p] 無声両唇破裂音
- [f] 無声唇歯摩擦音
のような「唇音」ばかりが用いられ、現在の「ヒ」の子音である
- [ç] 無声硬口蓋摩擦音
は、登場していませんでした。
また、現在のハ行音は、
- 「ハ・へ・ホ」の子音 … [h] 無声声門摩擦音
- 「ヒ」の子音 … [ç] 無声硬口蓋摩擦音
- 「フ」の子音 … [Φ] 無声両唇摩擦音
で発音されていますが、「ハ・ヒ・フ・へ・ホ」は、それぞれ異なる子音ではありません。
2が間違いです。
問3 ら抜き言葉
解説 ら抜き言葉
見る
【可能形】見られる
【ら抜き言葉】見れる
食べる
【可能形】食べられる
【ら抜き言葉】食べれる
来る
【可能形】来られる
【ら抜き言葉】来れる
東京方言では、大正~昭和初期から例が見られます。
(↑「ら抜き言葉」だと、例が見れます ですね。)
その答えになる理由
1が「ら抜き言葉」の内容そのままですね。
これが正解です。
問4 敬語の変化
その答えになる理由
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
「バイト敬語」のような例もあるにはあるのですが、言葉遣いから職業がわかるということはないですね。
1は間違いです。
行く→伺う
来る→見える
で良いところを
お伺いする
お見えになる
のような二重敬語にする例は、よく見られます。
文化庁国語審議会からも、相手や場面にふさわしくない過剰な敬意表現として挙げられているのですが、習慣化してしまっているのが現状ですね。
2は正しいです。
内容を確認させていただきます。
のような「~させていただく」は、広く使われるようになっていますが、該当するのは尊敬語ではなく、謙譲語Ⅰですね。
- 尊敬語 … 相手側または第三者の行為・ものごと・情態などについて、その人物を立てて述べる
- 謙譲語Ⅰ … 自分側から相手側または第三者に向かう行為・ものごとについて、その向かう先の人物を立てて述べる
3は間違いです。
かつて役職や上下関係などの相手の社会的立場によって敬語を使う・使わないの判断をしていましたが、現在は
そこまで親しくない相手には、「です・ます」で話す。
のように、相手との心理的距離から敬語を使う・使わないを判断することが増えてきています。
「相手との心理的距離」「相手の社会的立場」が逆なので、4は間違いです。
問5 方言周圏論
解説 方言周圏論
「蝸牛」とは、カタツムリのことです。
カタツムリを方言で何と呼ぶかが、当時の文化的中心地であった京都から デデムシ→マイマイ→カタツムリ…のように同心円状に分布していることを発見し、同心円の中心地である京都から周辺に向かって伝播していった…とされています。
その答えになる理由
1と2は、「方言の体系が東西で分かれ」が間違いです。
方言周圏論では、同心円の中心から周辺に言葉が伝播していくことが説明されています。
3は、「方言周圏論」の内容にピッタリですね。
これが正解です。
4は、「円を描いて方言区画が形成され」が間違いです。
文化の中心地から波紋が広がるように言葉が伝播していき、結果的に同心円の形状になっていっただけですね。
順番が逆になっています。