
令和2年度 日本語教育能力検定試験の試験問題における
試験Ⅰ 問題1
の解説をしていきます。
お手元に、以下をご用意の上で読んでいただければ幸いです。
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(1)調音点
日本語教育能力検定試験のトップバッターの問題は、例年「音声記号」です。
これは、私が過去問を持っている「平成26年度試験」から変更ありません。
試験Ⅰ 問題1は、【 】に示した観点から見て他と性質の異なるものを選ぶ問題です。
(1)であれば、今回の【調音点】以外にも、子音では【調音法】・母音では【唇のまるめ】などが出題されています。
まずは、用語の確認からしていきましょう。
解説 調音点
声道で鼻腔への通路を開閉したり、舌や唇を動かしたりして、声道の形などを変え様々な言語音をつくることを「調音」と言います。
● 両唇
● 歯茎
● 硬口蓋
などの調音を行う器官が調音点です。
解説 調音法
関連する用語も合わせて整理してしまいましょう。
呼気を妨害して子音を調音するときの方法を「調音法」と言います。
日本語の子音は
① 声帯振動の有無 (無声音・有声音)
② 調音点 (どこで)
③ 調音法 (どのように)
の3点の組み合わせで音が決まります。
その答えになる理由
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
[θ] 無声歯摩擦音
[m] 無声両唇鼻音
[b] 有声両唇破裂音
[ɸ] 無声両唇摩擦音
[p] 無声両唇破裂音
[θ] のみ、調音点が「歯」です。
日本語の子音にはない音で、think [θɪŋk] などが該当します。
日本語にない子音ばかりが出題される…ということはないので、全ての選択肢がわからなくても、消去法で解くことができるタイプの問題です。
また、この [θ] は平成28年度試験でも出題されています。
(そのときは、誤答の選択肢の1つでした。)
過去問で取り組んだ年度の誤答が、今回の正答…というのはよくあるパターンです。
誤答の選択肢の内容も、合わせて覚えてしまいましょう。
調音点・調音法については、以下でも解説しています。
ぜひ、ご参照ください。
(2)ガ行音
「ガ行」が出題されたときに真っ先に疑うのは、「鼻濁音になっていないか?」です。
解説 鼻濁音
「鼻濁音」とは、鼻音化された濁音のことで、通常は有声軟口蓋鼻音で発音される [ŋ] を指します。
「鼻濁音」になるのは、
① 語中・語尾
② 助詞の「が」
③ 連濁になる場合
④ 小学校」のように結びつきの強い複合語中
の場合です。
※ 「連濁」とは、「長靴」「日差し」のように2つの語が結びついて1語になる際に後ろの語の頭の清音が濁音になることです。
そのため、
がっこう [g] 有声軟口蓋破裂音 ← 語頭なので「鼻濁音」になっていない
はがき [ŋ] 有声軟口蓋鼻音 ← 語中で「鼻濁音」になっている
のように、同じガ行でも子音が異なります。
口腔断面図で表すと、以下のイメージです。
通常のガ行 [g] 有声軟口蓋破裂音
→ 鼻腔への通路が閉じている

鼻濁音のガ行 [ŋ] 有声軟口蓋鼻音
→ 鼻腔への通路が開いている

その答えになる理由
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
1 かいごし
2 ぎじゅつしゃ
3 だいがくせい
4 しゅげいてん
5 かぐや
2のみ、語頭で「鼻濁音」になっていません。
これが正解です。
(3)アクセントによる弁別
「弁別」とは「見分ける」ことです。
アクセント型の弁別機能とは、アクセントの型によってその語が何を指しているのかを「見分けられる」ことを言います。
アクセントについては、もう1つ「統語機能」という用語もあるので、合わせて整理しておきましょう。
「統語」とは、「単語をつなげて句・節・文を作る際の語の配列・関係」のことです。
この「統語」はアクセントだけでなく文法分野や言語の類型論(分類)でも出てくるので、しっかりと覚えておきましょう。
解説 アクセントの弁別機能
「雨」「飴」はアクセントによって、どちらを指しているのかを判断することができます。
このような役割をアクセントの「弁別機能」と言います。
解説 アクセントの統語機能


関連する用語もあわせて整理してしまいましょう。
上記の例だと、左が「もう+幸せ」の2語・右が「申し合わせ」の1語です。
アクセントによって、語の切れ目が判別できています。
このような役割をアクセントの「統語機能」と言います。
その答えになる理由
2語なので、アクセントは
平板式ー平板型 (低高)
起伏式ー頭高型 (高低)
のどちらかですね。
各選択肢で例を挙げてみると、以下のようになります。
柿 ⇔ 下記
橋 ⇔ 箸
空き ⇔ 秋
石 ⇔ 医師
風・風邪 ⇔ ?
5のみ、 風・風邪といった低高のアクセントしかありません。
これが正解です。
アクセントについては、以下でも解説しています。
(4)音便
解説 音便
Ⅰ型動詞(1グループ動詞)は、語幹が子音で終わるため、子音で始まる語尾が続くと「音便」と呼ばれる音韻的な変化が起きます。
(子音が重なることを避けるための現象です。)
泣く → 泣いた (イ音便)
立つ → 立った (促音便)
読む → 読んだ (撥音便)
どの音便になるかは、「辞書形の最後の音」で判断することができます。
辞書形の最後の音 | 音便 | 例 |
~く ~ぐ | イ音便 | 書く→書いた 泳ぐ→泳いだ ※例外:行く→行った(促音便) |
~う ~つ ~る | 促音便 | 買う→買った 打つ→打った 去る→去った |
~む ~ぶ ~ぬ | 撥音便 | 飲む→飲んだ 並ぶ→並んだ 死ぬ→死んだ |
~す | なし | 指す→指した |
その答えになる理由
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
書く → 書いた (イ音便)
蹴る → 蹴った (促音便)
話す → 話した (音便なし)
住む → 住んだ (撥音便)
洗う → 洗った (促音便)
3のみ、音便ではありません。
これが正解です。
(5)音読みの種類(漢音・唐音)
その答えになる理由
中国で使われる漢字の多くは、1つの字に対して読み方も1つです。
そのため、「漢字圏の学習者であれば、漢字の学習は楽勝!」というわけではなく、「なんとなく意味はわかるものの、どう発音するかを覚えるのが大変…!!」ことがよくあります。
漢字の読み方には、訓読みと音読みがあります。
訓読みは中国から伝わった漢字の意味を日本語に翻訳したところから生まれた読みで、送り仮名が振られたり、聞いただけで意味がわかるものが多いです。
一方、音読みはその漢字が伝わったころの中国語の発音を元にした読み方です。
伝わった時期によって、呉音・漢音・唐音があり、「明」であれば呉音が「ミョウ」・漢音が「メイ」・唐音が「ミン」です。
「新漢語林」によると、選択肢の漢字の読み方は以下の通りです。
呉音 | 漢音 | 唐音 | |
力 | リキ | リョク | – |
子 | シ | シ | ス |
期 | ゴ・ギ | キ | – |
文 | モン | ブン | – |
下 | ゲ | カ | – |
2のみ「唐音」、その他は「漢音」です。
「呉音」と「漢音」は以下のルールを覚えておくと、選択肢を削りやすくなります。
① ナ行で始まる音読み・ザ行で始まる音読みの2つがある場合、ナ行が「呉音」・ザ行が「漢音」
例)「日」の読み方は、「ニチ」が呉音・「ジツ」が漢音
② ナ行で始まる音読み・ダ行で始まる音読みの2つがある場合、ナ行が「呉音」・ダ行が「漢音」
例)「男」の読み方は、「ナン」が呉音・「ダン」が漢音
③ マ行で始まる音読み・バ行で始まる音読みの2つがある場合、マ行が「呉音」・バ行が「漢音」
例)「万」の読み方は、「マン」が呉音・「バン」が漢音
④ 同じ行の濁音(ガ行・ザ行・ダ行・バ行)で始まる音読み・清音(カ行・サ行・タ行・ハ行)で始まる音読みの2つがある場合、「濁音」が呉音・「清音」が漢音
例)「白」の読み方は、「ビャク」が呉音・「ハク」が漢音
⑤ チで終わる音読み・ツで終わる音読みの2つがある場合、チが「呉音」・ツが「漢音」
例)「質」の読み方は、「シチ」が呉音・「シツ」が漢音
(6)異字同訓
解説 異字同訓
「異字同訓」とは、異なる漢字で同じ訓があることを言います。
その答えになる理由
切る → 斬る
興す → 起こす
採る → 取る・撮る・捕る
収める → 納める・修める・治める
届く → ×
5のみ「同訓異字」がありません。
これが正解です。
(7)心理動詞の格
その答えになる理由
「心理動詞」という言葉に惑わされてはいけません。
このタイプの問題は、例文で考えてみるとあっさり解けることが多いです。
私は、彼にあきれている。
私は、この本を読み終えるのをあきらめた。
私は、先生をしたっている。
私は、彼をうたがっている。
彼をうやまうのも、もっともだ。
それぞれの心理動詞が「対象に●格を取るか?」で見てみると、1だけ「ニ格」、その他は「ヲ格」です。
(8)ニ格名詞句の意味
その答えになる理由
格助詞「に」は、もともと時間的・空間的・心理的なある点を指定する役割を持っています。
格助詞の中でも1番用法のバリエーションがあり、「着点」「相手」「場所」「起因・根拠」「主体」「対象」「手段」「時」「領域」「目的」「役割」「割合」に大きく分けることができます。
詳しい解説は、以下の記事を参考にしてみてださい。
今回の問題では、12個の用法のうち「着点」と「相手」が出てきています。
「着点」とは、物事の移動を伴う動作において、その移動が終わる位置のことです。
子どもが公園に着く。
泥がズボンに着く。
「相手」とは、事態の成立に関与する、主体以外のもう一方の有情物のことです。
Aさんに話しかける。
指名手配犯が警察に捕まった。
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
1の「小林さん」は「習う」という事態の成立に関与する、主体以外のもう一方の有情物ですね。
この場合のニ格は「相手」の用法です。
2の「山田さん」は「借りる」という事態の成立に関与する、主体以外のもう一方の有情物ですね。
この場合のニ格は「相手」の用法です。
3の「鈴木さん」は「教わる」という事態の成立に関与する、主体以外のもう一方の有情物ですね。
この場合のニ格は「相手」の用法です。
4の「田中さん」は「田中さんのところ」を表しているので、有情物ではないですね。
財布の移動先なので、この場合のニ格は「着点」の用法です。
5の「小川さん」は「もらう」という事態の成立に関与する、主体以外のもう一方の有情物ですね。
この場合のニ格は「相手」の用法です。
(9)「とても」の意味
用語の意味を確認しておきましょう。
解説 情態副詞
山田孝雄は、副詞を「情態副詞」「程度副詞」「陳述副詞」の3つに分類しています。
「情態副詞」とは、動作の変化の仕方や出来事のあり方を表す副詞のことです。
擬音語(ピカッと)・擬態語(ガツンと)・畳語(ごろごろ)なども「情態副詞」に含まれます。
解説 程度副詞
「程度副詞」とは、状態性の意味のある語にかかって、その程度を限定する副詞のことです。
「だいぶ」
「けっこう」
「かなり」
解説 陳述副詞
「陳述副詞」とは、述語の陳述の仕方を表す副詞のことです。
通常、文末と呼応します。
【推量】「おそらく(~だろう)」
【仮定】「もし(~なら)」
【否定】「けっして(~ない)」
その答えになる理由
2のみ「つまらない」の程度がはなはなだしいことを表しています。
これだけ「程度副詞」です。
その他は、後ろに否定の語が来ており「とても~できない」という不可能を表しています。
これらは「陳述副詞」です。
副詞の分類については、以下の練習問題を掲載しています。
ぜひ、チャレンジしてみてください。
(10)肯定否定の対立
その答えになる理由
「肯定否定の対立」という言葉に惑わされてはいけません。
選択肢を否定形に変えてみましょう。
挨拶しません
訪問しません
連絡しません
失礼しません(?)
面会しません
「失礼します」で1つの慣用表現になっているので、否定形にすると不自然になってしまいます。
4が正解です。
(11)「てくる」の用法
解説 「~てくる」の用法
「~てくる」は、よく出てくる用法として以下の3つがあります。
① 空間的用法(主体の移動)
「彼が自転車でやってきた」 → 移動してきたのは「彼」
② 空間的用法(対象の移動)
「結婚式の招待状が送られてきた」 → 移動してきたのは「招待状」
③ 時間的用法
「留学生の数が増えてきた」 → 時間の流れとともに…
※ 「彼がたくさんの本を持ってきた」のように、移動してきたのが「彼」と「本」のように①②が同時の場合もあります。
その答えになる理由
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
1 「トラック」と「荷物」が移動してくるため、空間的用法です。
2 「お客さん」が移動してくるため、空間的用法です。
3 「私」と「お弁当」が移動してくるため、空間的用法です。
4 「米」が移動してくるため、空間的用法です。
5 何かが移動してくるわけれはなく、時間の流れとともに状態が変化してるので、時間的用法です。
5が正解です。
(12)条件節の意味
その答えになる理由
条件節には
● 確定条件 … 確実に起こる条件(他の選択肢はない)
● 仮定条件 … 確実に起こるとは限らない条件(他の選択肢もある)
の2種類があります。
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
1 確定条件(「明日」は必ず来る)
2 仮定条件(「1,000円出さない」という選択肢もあり得る)
3 仮定条件(「タクシーに乗らない」という選択肢もあり得る)
4 仮定条件(「この本を読まない」という選択肢もある得る)
5 仮定条件(「こちらの道を行かない」という選択肢もあり得る)
1が正解です。
(13)身体部位を含んだ表現の意味
その答えになる理由
これはサービス問題ですね。
1 比喩表現で、実際に「腹を割っている」のではありません。
2 比喩表現で、実際に「口を挟んでいる」のではありません。
3 比喩表現ではなく、実際に「足を洗って」います。
4 比喩表現で、実際に「手を出している」のではありません。
5 比喩表現で、実際に「耳を貸している」のではありません。
3が正解です。
(14)ト格の意味
その答えになる理由
格助詞「と」には、大きく「相手」「着点」「内容」の3つの用法があります。
詳しい解説は、以下の記事を参考にしてみてください。
今回の問題は、「相手」の用法をさらに細分化して①・②の違いを聞かれています。
① 共同動作の相手
Aさんと図書館で勉強をした。
② 相互動作の相手
Aさんと口喧嘩をした。
③ 基準としての相手
Aさんとカバンの趣味が合う。
①の場合は1人でも動作が成立しますが、②の場合は相手がいないと動作が成立しません。
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
1の「見た」は、1人でも動作が成立しますね。
この場合のト格は「共同動作の相手」の用法です。
2の「楽器を弾いた」は、1人でも動作が成立しますね。
この場合のト格は「共同動作の相手」の用法です。
3の「歌った」は、1人でも動作が成立しますね。
この場合のト格は「共同動作の相手」の用法です。
4の「飲んだ」は、1人でも動作が成立しますね。
この場合のト格は「共同動作の相手」の用法です。
5の「けんかをした」は、1人だと動作が成立しないですね。
この場合のト格は「相互動作の相手」の用法です。
(15)直示表現(ダイクシス)
用語の意味を確認しておきましょう。
解説 直示表現(ダイクシス)
「直示表現(ダイクシス)」とは、言語活動において、発話現場にいなければ意味が成立しない性質のものです。
「彼は先生だ」「これが私の自転車だ」と言われたときに、発話された現場にいないと「彼」が誰を指指しているか/「これ」がどれを指しているかがわからず、この場合の「彼」「これ」が直示表現(ダイクシス)に当たります。
その答えになる理由
選択肢を1つずつ見ていきましょう。
1 「こちら」が指しているのは、発話側です。どちらが発話しているかによってどちらを指しているかが変わるので、直示表現(ダイクシス)です。
2 「後ほど」は、いつ発話されたかによっていつ頃かが変わるので、直示表現(ダイクシス)です。
3 文脈から「そこ=駅」だとわかります。発話の場にいなくても内容がわかるので、直示表現(ダイクシス)ではありません。
4 「今週」は、いつ発話されたかによっていつ頃かが変わるので、直示表現(ダイクシス)です。
5 「私」がどちら側にいるかによって指している場所が変わるので、直示表現(ダイクシス)です。